左脳系AI「ChatGPT」の登場でビジネス変革が見えてきた

2023.04.20

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生成系といわれるジェネレーティブAIのビッグウェーブが到来した!これまで画像認識、音声認識、自然言語処理といった感知・識別にあたるインプット領域を主戦場としてきたディープラーニングが、生成系というアウトプット領域にまで広がっており、これによりビジネスシーンは一変するかもしれない。AIは従来、人間にしかできなかった作業を代替できる技術であるが、ジェネレーティブAIは人間よりも斬新で高精度なコンテンツを生成できるようになる。ビジネスで活用されることで、我々の仕事はどう変革されていくのか。その可能性を考察していく。

ジェネレーティブAIがすごい

ここ数年で画像、動画、音声など、多くのジェネレーティブAIを使ったユースケースが登場してきたが、2022年後半からの変化は特に激しく、多くの社会現象を巻き起こしている。例えば画像では、自分にそっくりのAIアバターが作れることが話題になった。若い世代が慣れ親しんだSNOW等のアプリを使えば、簡単に自分のアバターを作れるということで、実際に試してSNSにアップする人が急増している(ちなみに筆者の写真もAIアバターである)。

そして今もっとも話題となっているのが、2022年11月に公開されたChatGPTに代表される大規模言語モデルである。大規模言語モデルとは、ディープラーニングの主な学習方法である「教師あり学習」と「強化学習」の双方を活用することで、まるで人間と会話しているかのような高度な会話ができるものを指す。たったの5日間で100万ユーザーを集めたChatGPTは、そのあまりの精度の高さから、海外では学校での利用を禁止しているケースすらある。

同サービスを提供しているOpenAI社が開発した高精度言語モデル(GPT-3)は、なんと1,750億パラメータものデータを学習させている。さらに現在開発しているGPT-4に至っては、100兆以上ものパラメータを学習させる想定であり、どれほどの技術的進化を成し遂げるのであろうか。倫理的かつ適切であり、冗談も冴えていて示唆に飛ぶ。そんな人間よりも気の利いた回答で溢れるであろう。

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このように話題となっているジェネレーティブAIだが、これまで登場してきたAIと比べて何が違うのだろうか。定義としては「機械学習(ディープラーニング)によって、斬新で新しいコンテンツを創造できるもの」となるのだが、いわゆるデータサイエンスにあたる既存データを分析する作業に留まらず、新しいアウトプットを生成するところまで包含したものになる。ちなみにChatGPTに「ジェネレーティブAIとは何か」を聞いてみたところ、図1のような回答が得られた。特に「アート、音楽、テキスト、画像などを生成するもの」という説明は理解しやすいのではないだろうか。

図1:ジェネレーティブAIの定義をChatGPTに聞いてみた結果

 

一方AI(人工知能)は「従来人間がおこなってきた作業を代替する技術」を指す。その具体的な使われ方は、人間が行動するまでのプロセスで整理してみるとわかりやすい。下図のように、人間は「感知」、「認識」、「意思決定」を経て「行動」に至るが、それぞれのプロセスで見てみるとAIがどのように活用されているかが理解できる。

図2:人間の行動プロセスで整理したAIの活用領域

 

この中で近年、高度なディープラーニングが活用されてきた領域が、画像認識、音声認識、自然言語処理といった「感知」や「識別」にあたるプロセスである。それぞれの領域での特化型AIは、すでに人間よりも高い精度を誇るまで成長してきた。

そして今、ジェネレーティブAIで話題となっている領域が「行動」のプロセスなのである。最後のプロセスまで人間以上の精度を持つようになると、いよいよ人手を介す必要のない完全自動化を目指せるようになる。ジェネレーティブAIが登場したことは、人間の行動プロセスの最初から最後まで担えることを意味しており、今後のビジネスを変革し得る大きな転換点とも言えるのだ。

左脳系AIだからこそビジネスに役立つ

ジェネレーティブAIは数年前から画像生成や作曲といったユースケースで話題となってきた。例えば画像生成のStable Diffusionは、どんな絵を描いてほしいかをテキスト入力することで、画家が描いたような絵を自分好みにアレンジすることができる。「最後の晩餐をピカソ風に描いて」、「バベルの塔を幻想的な鮮やかな色で描いて」といった具合だ(図3参照)。

図3:画像生成AIの事例(Stable Diffusion)

 

またGoogleが開発している音楽生成のAudioLMは、音声データを入力するとAIが続きを作成してくれる。実際に聞いてみると全く違和感なく、どこからがAIによる作曲なのか区別することが難しいほどだ(図4参照)。

図4:音楽生成AIの事例(AudioLM)

 

そして今、ジェネレーティブAIはChatGPTの登場によって文章生成が主戦場となっている。これはアートや作曲といった右脳系のクリエイティブな使われ方から、左脳系のロジカルな使われ方に広がったことを意味するわけだが、筆者はこの変化こそAIのビジネス実装における分水嶺になると見ている。

ロジカルな文章を完成度高く、しかも瞬時に作成してくれるとなると、さまざまな業務でAIが活躍する可能性が高い。少なくとも毎度おなじみの申請書類や報告書といった手間のかかる作業は、ジェネレーティブAIに任せたいと思ってしまうだろう。

試しに我々のチームは、大規模言語モデルの破壊力を見定めるため、何か調べものがある場合には“ググる”ことをやめて、ChatGPTに聞くことから始めてみた。いざ始めてみると、「もっとこんなことまで回答してくれるのではないか」と期待してしまうものだが、そうやって試しているうちにビジネスに役立ちそうなポイントがいくつも見えてきた。

<ビジネスに役立ちそうなポイント>
①悪意のある回答や誤った情報を生まないよう調整されている
②自分が過去に質問した履歴を考慮し、会話形式で答えてくれる
③指定した文字数で文章を生成してくれる
④リサーチに役立つ切り口(調査の軸)を出してくれる
⑤課題の根本原因を探るための仮説を出してくれる
⑥ビジネスで使いやすい表形式でのアウトプットもできる
⑦さまざまなツールと連携することで、一連の作業を自動化できる

それぞれの説明は割愛するが、例えば⑤の仮説出しにおいては下図の回答をご覧いただくと一目瞭然だろう。「日本企業の新規事業はなぜ失敗するか」の原因を仮説出ししたものだが、どれも的を射ており、社内の資料にそのまま使えそうなレベルである。

図5:ChatGPTへの質問「日本企業の新規事業はなぜ失敗するのか」

 

ジェネレーティブAIのあまりのレベルの高さに、「すでにシンギュラリティが始まっている」と主張する人までいる。シンギュラリティとはAIが人間の知能を超える技術的特異点のことを指し、遅くとも2045年までに到来すると言われているものだ。しかし人類の知能を超えるためには、これまでの特化型AIではなく、さまざまな領域を包含した汎用的な「強いAI」が開発される必要があるため、その実現はまだ遠い未来のことだと考えられてきた。だがChatGPTは人間動作の「識別」、「意思決定」、「行動」をカバーしており、すでに「弱いAI」からの脱却が始まっているといえるのだ。

ジェネレーティブAIをビジネスに実装する心構えを持とう

一方でAIに対して、未だネガティブにとらえている人が多いのも事実である。数年前からRPAやチャットボットを介してビジネスシーンでのAI実装がおこなわれてきたが、「導入したけど使いにくい」、「大したことをしてくれない」というように、AIは期待外れと認識しているビジネスマンは多い。

例えば業界独自の専門用語を学習させてチャットボットを開発した経験がある人なら、ChatGPTのような汎用的なAIはビジネスにおいては役に立たないと考えるかもしれない。自然言語処理のAIを導入する際に重要となるコーパス(文章を構造化したデータベース)は、専門用語を網羅的に学習させる必要があり、汎用的なAIプラットフォームだと精度を上げることが難しいからである。業界特有の業務に特化したチャットボット、歴史や文化に関する多言語翻訳など、固有名詞が多数あるユースケースにおいてはコーパス量が精度のカギを握るため、企業が独自に構築してきたAIソリューションの方が精度は高い可能性がある。

また“学習のさせ方が違う”というのもポイントとなる。業務に役立つチャットボットを作りたいなら、社員にとって使い勝手が良い文章を生成しなければならない。例えば営業マンがクライアント企業にアピールしたい言葉を求めているなら、過去の行動履歴をもとに文章を生成するといった具合だ。この辺りも汎用的なAIプラットフォームでは対応が難しい。

このような理由から、汎用的なAIプラットフォームをビジネス実装するのは時期尚早と考える人が多いが、早合点は危険かもしれない。もし企業が独自で構築したAIソリューションとジェネレーティブAIをAPI連携で組み合わせることができれば、ビジネス変革の可能性はより一層高まるからだ。図6は自社構築のチャットボットと汎用的なAIプラットフォームを組み合わせたイメージだが、質問に応じて使い分けることができればUXを大きく高めることができるだろう。

図6:チャットボットの組み合わせイメージ

 

そのためにもまず理解すべきなのは、汎用的なAIプラットフォームはごく限られたテックカンパニーでないと構築できないということだ。大規模言語モデルのように壮大なデータ量が必要となる領域では、プラットフォーマーとしてデータを蓄積してきたプレイヤーでないと参入は難しい。図7は世の中のAIユースケースを「データの量や種類」と「実用化フェーズ」の軸でマッピングしたものであるが、壮大なデータ量が求められるC群にゼロからチャレンジすることは無謀だと理解できるだろう。

まずは社内で活用できるようなA群のユースケースから始めてみることが賢明であろう。業界特有の専門用語にも対応させながらカスタマイズできることも利点となる。ただA群だけではあまり高度な作業は代替できないため、AIプラットフォームを上手く組み合わせて相互補完していけると良いかもしれない。

図7:AIユースケースのマッピング

 

例えば当社のような広告を扱う業界では、すでにジェネレーティブAIを使った広告クリエイティブの生成など、AIプラットフォームの活用は欠かせない要素となっている。これまでインターネット広告は生活者をセグメントし、複数の広告の中から適切なものを表示できるようしてきた。今後はジェネレーティブAIを活用した次世代広告によって、生活者一人ひとりの趣向に合わせ、広告を瞬時にカスタマイズして提供できるようになっていくだろう。

デジタル時代の進化のスピードを見誤ると、いつの間にか時代遅れになってしまう。デジタル時代はVUCAと呼ばれるほど予測不能な時代だが、変化の早さは今や数年単位から数か月単位に変わった。汎用的なAIプラットフォームは嘘を教えたり、悪意のある回答をしたり、差別発言をしたりといったリスクはあるが、それらはいずれ解決される問題と捉えておくことも肝要だ。

現在は、「すでにシンギュラリティが始まっている」とAIの進化に目を見張る“AIポジティブ派”と、まだ大したことはないと考える“AIネガティブ派”の両極端の意見が拮抗しており、希少なタイミングだといえる。だからこそ、やはり今がビジネス実装における分水嶺と考えてしまうのだ。DXというビジネス変革が不可避となっている現在、AIの進化にどれだけ刮目するかが、企業がチャンスをつかめる成否を分けるかもしれない。

使いどころを見極めることでジェネレーティブAIは確実に役立つものとなる。これからはAIを上手く活用した企業が成功をおさめていくだろう。試しにChatGPTに有効な活用方法を聞いてみたのだが、同じ質問を3回くり返しても、全て違う回答を出してくれるボキャブラリーの多さであった(図8参照)。どれも効果を期待できそうなユースケースであるため、まだ試していない方は体験してみては如何であろうか。

図8:「ChatGPTの有効な使い方」を3回繰り返し聞いてみた

 

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この記事の著者

八木 典裕

株式会社アイレップ
執行役員 DXコンサルティング担当

大手IT企業、ベイカレント・コンサルティングを経て、2022年11月からアイレップに参画。DX/CX関連のさまざまな活動を主導。DX戦略立案、CDO育成、DX部門立ち上げ、DX人材育成、新規ビジネス創出など多数のプロジェクトに携わる。

主な著書に『3ステップで実現するデジタルトランスフォーメーションの実際』、『データレバレッジ経営』(共著/日経 BP 社)、『DXの真髄に迫る』、『感動CX  日本企業に向けた「10の新戦略」と「7つの道標」』(共著/東洋経済新報社)などがある。

株式会社アイレップ
執行役員 DXコンサルティン...

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