ROIを考える。デジタルマーケティングのKPIと効果測定

2020.06.25

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本記事は、デジタルマーケティングを統合的に分析するためのフレームワーク「7つのC(7Cs with D)」の中から、「Cost」に該当する部分を深堀した記事になります。

分析フレームワーク「7つのC」に関してまとめた記事はこちらを参照ください。

Costに関して

「Cost」の章では、どれだけの費用(コスト)をかけてどれだけの効果(リターン)があったかという、マーケティングROIに関して見ていきたいと思います。本書のテーマである、統合的にデジタルマーケティングを推進していくというスタンスに立った時、マーケティングROIに関しても、個々の施策内での投資対効果だけではなく、全体最適な視点で投資対効果を見ていくことが重要になります。

効果測定の考え方に関して整理し、次に一般的なデータ分析作業フローと、デジタルマーケティングでよく使われている分析手法をいくつかご紹介します。

効果測定の考え方

まず、効果測定の考え方からですが、大きな論点としては、マーケティングROIの対象範囲をどこに設定するかで、効果の良し悪しが変わってくるということを考察したいと思います。

一つ目のケースとして、顧客獲得コスト(CPA)という指標がありますが、これは、どれぐらいの期間で見るのがいいのでしょうか。一般的に、プロモーションを担当している部門だけで見た場合、CPAの金額は低いほうが投資対効果は高いと判断します。

ですが、LTV(長期的)視点に立って、既存の優良顧客を分析した結果、その後の商品購入が多かったのはCPAの金額が低い人では必ずしもなかったという分析結果が出た場合、どのように判断すればいいのでしょうか。これは、アクイジション施策とカスタマーエンゲージメント施策が分断している場合に、よく起こりうる課題です。

二つ目のケースとして、リード獲得施策はオンラインで行うものの、最終的な契約クロージングは、営業マンが行うような商品・サービスの場合はどうでしょうか。不動産や保険、銀行などが該当します。

この場合、例えば、オンラインでのリード獲得を2つの媒体で実施したとします。A媒体で20件のリードが獲得でき、B媒体で10件のリードが獲得できたとします。リード獲得という観点で見た場合は、当然のことながらA媒体が優れているという判断を下します。

しかし、実際の成約に至ったリードが、A媒体、B媒体、それぞれ5件だった場合、A媒体の成約率は25%、B媒体の成約率は50%と、圧倒的にB媒体のほうが投資対効果に優れていることが分かります。成約率から見るとB媒体への予算配分を大きくしたほうが、売上/利益に貢献するはずです。

なぜ、このようなことが起こってしまうかというと、マーケティング部門とセールス部門が連携できておらず、オンラインで獲得したリードのデータベースと、成約に至ったデータベースを突合せず別々に管理されていることが、このような結果を生み出してしまいます。

三つ目のケースとして、複数のメディアを活用してプロモーションを実施している場合です。例えば、テレビ、ラジオ、オンライン広告の3つのメディアを活用したプロモーションを実施し、最終的なコンバージョンをオンラインでの予約・申込としたときに、どの媒体が、どう連携し、最終コンバージョンにどう寄与したのかを把握しなければならないときです。

以上見てきたように、時間軸で投資対効果を見る場合や、オンライン施策とオフライン施策を連携して投資対効果を見る場合、メディア間でのアロケーションで投資対効果を見る場合など、対象範囲をどこに設定するかで、マーケティング施策の投資対効果にも違いが出てきます。

最近では、テクノロジーの環境面が整備されてきたことで、データを活用した分析が、以前よりもやりやすくなっています。デジタルマーケティングを推進する部門やその責任者は、より包括的な視点を持ってマーケティングROIをモニタリングしていかなければなりません。

 

データ分析作業フロー

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(図1:データ分析作業フロー)

 

一般的なデータ分析作業のフローを見ていきたいと思います(図1)。大きく、5つのステップを踏んでいきます。

まず、最初のステップは、分析の目的や課題を明確化し、項目としてまとめるところからスタートします。

次に、要件に対する具体的な評価指標をKPIとして設計し、必要なデータ項目を整理します。ここは、「戦略/事業理解」で定義したKPIを活用していきます。

三つ目のステップがデータフォーマットの設計で、KPIを表すのに必要なデータフォーマットやテーブルを整理し、データを、どこからどのタイミングで取得するのか明確化します。

四つ目のステップが、データの抽出やクレンジング・加工です。分析に必要なデータをSQL等で抽出し欠損値の対応を検討します。分析用のデータの持ち方を加工し、縦持ちや横持ち、フラグの設定などを行いテーブルの連結等を行います。全体の工程の中で、このステップが、最も時間がかかる工程になるかと思います。

最後は、抽出したデータを計算機に投入しテストデータとの精度を比較していきます。また、BIツールを活用して、データをビジュアライズ化し、ダッシュボードで見られるよう設計・実装していきます。

 

効果測定の種類

マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)

マーケティング・ミックス・モデリングは、概念としては1960年代からありましたが、データが取得しやすくなってきたのを背景として、最近、また、脚光を浴びている手法の一つです。マーケティング・ミックス・モデリングでは、売上や顧客数、リード件数や契約数といった「マーケティング目標になりうるデータ」と、広告出稿量や店頭プロモーション実施量などの「マーケティング施策実施データ」を揃えた上で、統計解析手法を活用して、売上とマーケティング施策の関係性をモデル化する手法です。先ほど述べた、メディアのアロケーションを把握するときに有益な手法です(図2)。

 

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(図2:マーケティング・ミックス・モデリング(アウトプットイメージ))

 

決定木分析

決定木分析は、「決定木(ディシジョンツリー)」と呼ばれる樹木状のモデルを使って、複数の「要因」と「結果」の関係性のなかから、影響の強い要因を階層別に把握する分析手法です。影響の強い要因の把握と、要因の組み合わせを把握することができます。

例えば、広告プロモーションにおいて、キャンペーンコードの使用有無、会員区分の有無などを分岐させ、どのパターンがコンバージョンに寄与したかを分析し、効果が高かった要因を分析していきます(図3)。

 

30764534452_4(図3:決定木分析(アウトプットイメージ))

 

回帰分析

回帰分析は、1つの説明変数に対し、1つの目的変数を算出する「単回帰分析」と、複数の説明変数に対し、1つの目的変数を算出する「重回帰分析」の2つの手法があります。前者ですと、「気温」を説明変数として「ビールの販売数(目的変数)」を予測するのが単回帰分析の一例です(図4)。後者ですと、「広さ」、「最寄りの駅までの時間」、「築年数」など複数の説明変数から、「不動産の価格(目的変数)」を予測するのが重回帰分析の一例になります(図5)。

 

30764534452_5(図4:単回帰分析の一例(アウトプットイメージ))

 

30764534452_6(図5:重回帰分析の一例(アウトプットイメージ))

 

アトリビューション分析

アトリビューション分析とは、コンバージョンに至ったアクションだけでなく、コンバージョンに至るまでの全ての接触メディア・経路の貢献度を測ることで、仮説検証の精度を上げる取り組みです。モデルとしては、最後のタッチポイントだけコンバージョンとする終点(ラストクリック)モデル、最初のタッチポイントだけコンバージョンとする起点モデル、全てのタッチポイントを均等にコンバージョンとする線形(均等)モデル、コンバージョンに近いタッチポイントをより強く要因とする減衰モデル、最初・途中・最後のタッチポイントの重みを変えてコンバージョンとする接点ベースモデル、の5つのモデルに分類することができます。

 

RFM分析

RFM分析とは、Recency (最新購買日)、Frequency (購買頻度)、Monetary (購買金額)の3つの指標から、顧客をグループ化した上で、それぞれのグループの性質を知り、マーケティング施策を講じる分析手法です。

Recencyでは、最近購入している顧客のほうが、何年も前に商品を購入した顧客よりも優良顧客であると判断します。Frequencyでは、購買頻度が高い顧客を優良顧客であると判断します。Monetaryでは、購買金額が少ない顧客よりも、購買金額が大きい顧客を優良顧客であると判断します。

この3つの指標から、最近購入していて、購買頻度が高く、購買金額が一番大きい顧客をロイヤルカスタマーとして定義し、それぞれのステイタスにある顧客をロイヤルカスタマーに近づけるためのマーケティング施策を行っていきます。

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この記事の著者

竹内 哲也

NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。

NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年...

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