デジタルマーケティングを実現するテクノロジー:何をどのように導入していくべきか

2020.06.25

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本記事は、デジタルマーケティングを統合的に分析するためのフレームワーク「7つのC(7Cs with D)の中から、「Cloud(システム)」に該当する部分を深堀した記事になります。

分析フレームワーク「7つのC」に関してまとめた記事はこちらを参照ください。

Cloudに関して

「Cloud」のパートでは、統合的にデジタルマーケティングを推進するためのテクノロジーの整備に関してまとめていきます。

まずは、前段で「システム導入の全体像」を整理したいと思います。システム開発では、よく「As is(現状)」と「To be(あるべき姿)」という言葉でシステム開発の状況を整理しますが、まずは、あるべき姿を定義し、現状との差分(フィット&ギャップ)を明確化して、段階を踏んでシステム環境を整備していきます。

よくある話として、全体像が見えないまま、それぞれの部門が勝手気ままにシステムを導入して、誰も把握できなくなってしまったという、笑えない話もあります。ですので、システム導入の全体像をきちんと見据えた上で、どのような手順で導入していくべきかを、整理してみたいと思います。

システム導入の全体像

まず、システム導入の全体像を、4つの領域から区分したいと思います(図1)。

 

30766612070_2(図1:システム導入の全体像)

 

ひとつ目が「計測・取得」です。まず、「計測・取得」の領域では、企業内に散在する様々なデータ(1stパーティデータ)や、外部の3rdパーティデータを計測・取得できる環境を整備していきます。

例えば、Google アナリティクスやAdobe Analyticsのタグをオウンドメディアに設置して、サイト内のユーザー行動を分析できるようにしたり、基幹システム内に存在するPOS(売上)データや商品データをAPIで取得して利用できるようにするなどが、この領域に該当します。

ふたつ目が「統合・分析」です。「統合・分析」の領域では、計測・取得したデータを、ひとつの箱で管理できるよう統合化していきます。この箱に相当するものが、プライベートDMPやCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)と呼ばれるもので、顧客IDを統合化した上で、全てのデータを顧客IDに紐付けて管理できる環境を整備していきます。また、統合化したデータをBIツール等を利用して、分析や可視化(ダッシュボード化)を行い、マーケティングの意思決定に活用できるようにしていきます。

三つ目が「配信管理」です。「配信管理」の領域では、新規顧客向けのアクイジション施策でコミュニケーションを行うための広告プランニングツール類の整備と、既存顧客向けのカスタマーエンゲージメント施策でコミュニケーションを行うためのメッセージ配信管理ツール類の整備を行っていきます。

デジタルマーケティングの初期段階では、統合的な配信管理の重要性はそれほど強く感じないかもしれませんが、配信先が複数になり、また、配信方法も異なってくると、統合的に管理できるツールがあるかないかで運用の仕方が大分変わってきます。
また、新規顧客と既存顧客を統合的に管理し、フルファネル型でマーケティングコミュニケーションを実施していく段階に入ると、それぞれのシステムを連携していくことになるため、より重要度は増していきます。

四つ目が「配信」です。「配信」の領域では、アクイジション施策に該当する領域とカスタマーエンゲージメント施策に該当する領域で、管理する配信対象が異なります。前者では、広告を配信するためのメディアとの連携が、後者では、メール配信やモバイルプッシュ、ソーシャルメディアを活用したメッセージング配信(ボット配信)との連携が求められます。最終的に、顧客とどのようなコミュニケーションを行うかは、この配信先の対象とその組み合わせによって変わってくるということを理解してもらえればと思います。

以上、4つの領域から、デジタルマーケティングを統合的に推進するためのテクノロジーの整理・分類を行いました。それでは、次に、どのようにテクノロジーを整備していくべきか、導入までのステップを整理したいと思います。

 

導入までのステップ論

大前提として、KGIを達成するための評価指標としてKPIが存在し、そのKPIを達成するための具体的な打ち手として、マーケティング施策が存在します。システム導入は、あくまで、マーケティング施策を実現するための手段でしかありません。

例えば、今までターゲットとしていなかった層に対して、新商品の販売を強化していきたいならば、取るべきマーケティング施策は、新しいターゲット層へのブランド認知と利用者数の増加(獲得)がメインの取組みになります。それを実現するためのテクノロジーは、対象となる潜在顧客を分析するためのDMPの導入かもしれません。

一方で、商品を購入したユーザーに対して、サポートを充実させていくことが主目的ならば、カスタマーエンゲージメント施策を中心に行うことがKPI達成の打ち手として有効です。それを実現するためのテクノロジーは、AIエンジンを活用した自動応答(ボット)システムの導入かもしれません。

まずは、「何を実現したいか(WHAT)」を整理したうえで、それを「どのようなテクノロジーで実現していくか(HOW)」という順番で考えていくことが重要です。

次に、マーケティング施策として何をやるべきかが明確になったとして、それを推進するための「制約条件」も考慮しておく必要があります。

「制約条件」とは、プロジェクトや事業を推進していく上での障壁(ボトルネック)になることを言います。一般的に、企業内における主だった「制約条件」は2つです。一つ目が、「お金(予算)」で、二つ目が、「人(推進体制)」になります。
ですので、システム導入を推進していくときも、あるべき姿としての全体像をゴールに置きながら、「予算」や「推進体制」を考慮して、できるところから推進していくというのが現実的な選択肢になります。

まとめると、システム導入の検討をするときは、まずは、システム導入の前段として、KPIとそれを達成するためのマーケティング施策を十分に検討し、その上で、「予算」と「推進体制」という2つの制約条件を考慮に入れて、現実的なところからスタートしていく必要があります。

それでは、今まで述べてきたことを考慮に入れた上で、具体的にどのように進めていくのか、マーケティング施策を3つのパターンに分けてシステム導入の手順を考えてみたいと思います。

一つ目が、新規顧客にフォーカスしたアクイジション施策を中心にテクロジーを整備していくパターン(パターン①)で、二つ目が、既存顧客にフォーカスしたカスタマーエンゲージメント施策を中心にテクノロジーを整備していくパターン(パターン②)です。三つ目のパターンは、両方の施策を連携させ、フルファネル型で統合的にマーケティング施策を実行する時のテクノロジー整備のパターン(パターン③)です。

パターン①の場合を具体的に見ていきたいと思います。アクイジション施策では、広告プロモーションがメインの施策になりますので、広告配信に関係するテクノロジーを整備していくことが基本になります。

例えば、システムを利用して広告を配信するDSP(デマンド・サイト・プラットフォーム)や、impressionを計測するためのトラッキングツール、3rdパーティデータを利用するためのパブリックDMP、広告プランニングツールやBIツールなどのテクノロジーを整備していく必要があります。

制約条件の観点から見ると、アクイジション施策では、広告プロモーションに付随する形でテクノロジーを導入することが多いので、予算や人的リソースに関しては、現状の広告施策の延長線上で獲得しやすい領域かと思います。

パターン②の場合はどうでしょうか。カスタマーエンゲージメント施策では、既存顧客化したユーザーに、広告以外の手法を使ってコミュニケーションを図っていくのが基本になります。

例えば、メール配信やモバイルプッシュ、ソーシャルメディアでのメッセージング配信などです。具体的な導入テクノロジーとしては、MA(マーケティングオートメーション)や、ソーシャルメディア向けのメッセージング配信ツールなどが、それに該当します。

制約条件の観点から見ると、カスタマーエンゲージメント施策の場合、MA等のツール導入に2,000万円から3,000万円程度の投資がかかることや、導入後のコンテンツ運用体制が求められるため、スタートするための準備に一定時間がかかるのではないかと思います。

パターン③のフルファネル型での施策展開の場合は、パターン①とパターン②を個別に実施するのではなく、新規顧客の獲得から既存顧客の関係構築まで一気通貫でサポートしていく必要があり、そのためのテクノロジー整備が求められます。

例えば、プライベートDMPやCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)と呼ばれる顧客のID&データ統合基盤を整備し、さらに配信管理のツール間連携が求められます。

制約条件の観点から見ると、予算もさることながら、マーケティングコミュニケーションを統合的にどのように進めていくかというグランドデザインと、それを推進するための体制作りが成功要因になることが多いかと思います。

3つのパターンに関して、導入すべきテクノロジーを整理すると、個別施策に紐づくテクノロジーと、共通して利用できるテクノロジーに分類することができるかと思います。システムの全体像で整理した言葉を使うと、主に「配信管理」の部分は、個別施策毎にテクノロジーを導入し、「計測・取得」や「統合・分析」のところは、個別施策に関係なく、共通のテクノロジーとして利用できる部分になります。

 

30766612070_3(図2:導入テクノロジーの区分)

 

最後に、上記3つのパターンの、現実的によくある導入ステップを整理します。

まず、ファーストステップは、アクイジション施策を中心に、DSPやトラッキングツール等の広告配信管理系の個別テクノロジーの導入と、それに紐づく共通基盤(例えば、パブリックDMPなど)としてのテクノロジーを整備していきます。

次に、カスタマーエンゲージメント施策では、配信管理に該当するマーケティングオートメーションやメッセージング配信ツール等のテクノロジーを整備し、アクイジション施策で導入した共通基盤(DMP)との連携を図っていきます。

最終的にフルファネル型に対応できるよう、アクイジション施策とカスタマーエンゲージメント施策でそれぞれ導入した個別のテクノロジーを顧客ID基盤で連携させ、統合的に施策を連携できるようにしていく、というのが現実的なステップ論かと思います。

図表で整理すると、以下の通りとなります(図3)。

 

30766612070_4(図3:システムの導入ステップ)

 

具体的なケースとして、ザ・スポーツ・カンパニー社のケースに当てはめて、システム導入を検討してみたいと思います。アクイジション施策に関しては、バナー広告等のオンライン広告施策は実施しているものの、データを活用したターゲティング配信に関してはまだ実施していません。

まずは、自社で運営しているオウンドメディアとECサイトにパブリックDMPを導入します。また、既に導入済みのGoogle アナリティクスのサイト内行動データとパブリックDMPのデータを連携させ、自社サイトに来訪している関心度の高いユーザーは誰なのかを分析していきます。分析結果から、潜在顧客になりうるターゲットセグメントを特定し、広告配信に活用していきます。

データを活用した広告施策が軌道に乗ってきた段階で、データ環境の整備をさらに広げていきます。具体的には、自社の1stパーティデータを広告施策に活用できるようプライベートDMPやCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)と呼ばれるデータ基盤を整備していきます。この時に、カスタマーエンゲージメント施策とも連携できるよう顧客IDを統一的に管理できるようにしていきます。

第2フェーズとして、カスタマーエンゲージメント施策に関連するテクノロジーの整備に移っていきます。ザ・スポーツ・カンパニー社では、一斉配信型のメール配信は実施しているものの、ユーザーのステイタスや興味関心に基づいてコンテンツをレコメンドするメール配信は実施していません。

より高度な配信を実現するため、既存のメール配信システムから、MA(マーケティングオートメーション)やソーシャルメディア向けのメッセージング配信ツールへの移行を考える必要があります。

全ての配信面を統合的に管理していきたいので、ここでは2つの配信管理ツールを導入し、メール配信、モバイルプッシュ、ソーシャルメディア(LINE、Facebook Messenger、TwitterDM)へのメッセージ配信まで対応できるよう環境を整備していきます。

カスタマーエンゲージメント施策でも、当然、データを活用した配信を実施していくため、DMPと連携してデータに基づく配信ができるよう環境を整備していきます。時間軸で見ると、ここまでの環境整備で、大体1~2年ぐらいの期間を想定してプロジェクトを進めていきます。

アクイジション施策とカスタマーエンゲージメント施策がそれぞれ起動に乗ってきた段階で、フルファネル型で統合的にマーケティング施策が実施できるよう、環境面の統合化を推進していきます。ここまで来れば、システム導入の全体像で記載した、基本的なテクノロジーを導入し、それぞれのシステムが有機的に連携した形でサービス運用ができるようになるかと思います。

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この記事の著者

竹内 哲也

NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。

NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年...

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