オーディオアドを最大限に生かすクリエイティブ制作のコツとは?

2020.12.11

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音楽ストリーミングサービスやスマートスピーカーの普及によって、オーディオアド(デジタル音声広告)が注目を浴びています。

オーディオアドは、“ながら視聴”が多く、生活に馴染みやすい視聴傾向や、広告として嫌われないなどのメリットが挙げられます。今回は、そんなオーディオアドの市況やマーケティングにおける活用ポイント、そしてオーディオアドならではのクリエイティブ制作について、アイレップ コミュニケーションデザインUnitインタラクティブデザインDivisionでオーディオアドに注力している豊川小百合と吉田真央に、彼女たちがかかわってきた案件を踏まえて話を聞きました。

オーディオアドの市場概況

オーディオアドの広告市場が急成長していますが、概況について教えてください

豊川 小百合(以下、豊川):
“オーディオ”の中にはまず音楽の市場が挙げられます。この市場は2015年から4年連続で伸びており、その背景の一つとしてSpotifyやApple Musicなど音楽ストリーミングサービスの成長があると思っています。日本国内においても2020年度第2四半期のストリーミングの配信売上が190億円を超えているというデータがあります。※1ダウンロードが主流だったものが、今やストリーミングが7割を占めている状態です。
※1:PR TIMES 2020年9月10日『2020年第2四半期の音楽配信売上は前年比111%の190億円


また、ラジオコンテンツは限られた状況でしか視聴できなかったところから、ラジオクラウドやラジコなどのサービスが開始されたことで、ラジオコンテンツをより手軽に聴くことができるようになり、視聴者も増えています。※2
※2:博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 『メディア定点調査2020

 

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(図1:メディア総接触時間の構成比 時系列推移(1日あたり・週平均):東京地区)

 

なかでも、個人的に注目しているのは“ポッドキャスト”で、ラジオコンテンツがメディアにアーカイブされるようになり、Spotifyなどでも視聴できるようになっています。これにより、ラジオコンテンツに再び注目が集まり、改めて視聴者が増えています。

 

吉田 真央(以下、吉田):
コロナ禍でテレビ番組が枯渇していた時に、ラジオは少ない人数でもコンテンツ制作ができるメリットを生かし、新しいコンテンツが制作され続けています。こうしたこともラジオコンテンツが再評価されている背景になっています。例えば、最近ですと星野源さんが完全リモートだけでラジオを制作した事例もありますね。※3

※3:ORICON NEWS 2020年4月8日『星野源、冠ラジオに自宅からテレワーク生出演 スタッフ抜きの単独生放送「おそらくラジオ史上初」

マーケティングにおける活用ポイント

新型コロナウイルスの影響もあり活性化が進むオーディオアド市場ですが、その特徴やマーケティングにおける活用ポイントはどういったところでしょうか

豊川:
オーディオアドは動画広告などとは視聴形態が違うところがポイントです。特にWeb動画などは自分が観たいコンテンツの前や途中で広告が入っているのに対して、 “ながら視聴”で聴いているため、広告に対するストレスの感じ方に差があると思います。オーディオアドの方が広告調査において好意度が高く出る傾向もみられています。※4

※4:Adobe blog 2019年4月5日『Adobe Digital Insights: 米国における音声広告が、テレビやオンラインなどの広告より人々の興味を引く結果に


吉田:
多くの一般的なWeb広告の場合、豊川が言うように、コンテンツの前や途中に、時にはコンテンツに被さって掲示されることと比較して、オーディオ広告はコンテンツとコンテンツの間に入ることもあり、広告に対するストレスを感じさせにくい傾向にあります。

豊川:
さらに、これまでの音声ベースの広告(ラジオ)に対して、デジタルなのでターゲティングできることが最大の強みだと思います。メディア内だけでなく、第三者データも活用できるため、さまざまなデータを活用して、年齢、性別、興味関心、時間帯、位置情報などのターゲティングが可能になっています。

吉田:
例えばSpotifyだとプレイリストターゲティングというものがあり、ロックをよく聴く人やポップスをよく聴く人、などといった新しいターゲティングが可能です。この、ユーザーのパーソナルな嗜好性に合わせたターゲティングを活用して広告配信することが、広告の好感度を上げるポイントだと考えています。

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豊川:
特徴で言うと、例えばSpotifyの場合、広告が一切出ない有料会員と、広告が出る無料会員があり、無料会員だと広告を見せる・聴かせることでビジネスモデルが成立しており、広告の完全視聴率において動画に比べ高い平均スコアが出ています。例えばYouTubeの完全視聴率が20~50%程度に対して、オーディオアドは完全視聴率が100%に近いです。さらに、“ながら視聴”なので、そこまで広告が邪魔に感じにくいことも強みのひとつだと思います。

マーケティング全体設計の中において、オーディオアドはどのように使うのが最適でしょうか?

吉田:
一般的にはスモールマスのひとつとして使うのが良いと思っています。
オーディオアドは、認知寄りの施策として使うことが多くなるため、テレビなどのマスでは届きづらいターゲットに届けるためのひとつのメディアとして使うのが良いと考えています。

豊川:
ファネルの観点で言うと、オーディオアドは“ながら視聴”であるがゆえにバナーなどの広告のようなユーザーのクリックが見込めないため、広告のファネルのなかで言う「獲得」にはあまり向かないと感じており、「認知」などのアッパーファネルの施策として使われることが多いと感じます。

しかし、私たちはオーディオアドはミドルファネルでも効果的な使い方ができると考えています。

オーディオアドはデジタル広告のため、視聴履歴などのデータがあります。例えば、オーディオアドに接触したターゲットに、別の場所でバナーなどにより接触していくことができます。また、もうひとつの手法として、クリエイティブを工夫することで「指名検索」を増やすことも可能だと思います。こうすることで、ロワーファネルである「獲得」までシームレスに繋げるプランニングが可能です。

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オーディオアドを最大限に生かしたクリエイティブ制作とその効果

オーディオアドのクリエイティブ制作におけるポイントやチャレンジ、事例についてお聞かせください

吉田:
制作のポイントは、動画に比べて圧倒的に費用が安いため、複数制しやすい点にあります。プロトタイピングしながらクリエイティブを制作していく際の利点のひとつになります。また、アイレップの場合はクライアント企業のさまざまなコンバージョンデータを持っているため、ロワーファネルに寄与する制作が可能です。

豊川:
オーディオアドの制作におけるチャレンジで言うと、音声で聞いている人にとっては当たり前ですが音や声でしか情報がないので、いかに興味を惹くことができるのかを考えます。

例えば、今回私たちが対応した大手不動産会社様の事例では、時流に乗ってちょうどそのタイミングで人気なアニメに出演していたヒーローとヒロイン役の声優をそれぞれ起用しました。その方々がTwitterでリツイートもしてくれたことで彼らのフォロワー≒ファンに届いたため、エンゲージメントが高く2万「いいね」以上獲得ができました。

また、クリエイティブも360°音声という手法を使いました。声優の「いい声」の魅力を最大限引きだすにはどうしたら良いかを考えた結果、ささやくような伝え方にすることを提案しました。立体音響になっており、いま話題のASMR※5を意識した手法です。聴こえ方が通常のものと異なり、頭の中を駆け巡るような感じになるため、その声優さんを知らないユーザーからも「あれは何だ?」という声が出て、結果的に話題化に繋がりました。
※5:ASMRとは
Autonomous Sensory Meridian Responseの略で、人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地良い、脳がゾワゾワするといった反応・感覚。正式、および一般的な日本語訳は今のところ存在しないが、直訳すると自律感覚絶頂反応(じりつかんかくぜっちょうはんのう)となる。

吉田:
他にもこだわった点で言うと、時間帯ですね。広告を聴くタイミングを考慮して、午前に届ける場合は「おはよう」、午後なら「おつかれさま」というメッセージを入れました。そうすることでオーディオメディアの特徴でもある「パーソナルな環境」で時間軸を入れたことで、自分ゴト化を狙いやすいのではないかと考えました。

結果、本クリエイティブに接触したユーザーがソーシャル上で「おはようと言われて元気が出た」や、「疲れていた時に「お疲れさま」って言われてぐっときた」というコメントがあり、時間帯ターゲティングがうまく効いたなと感じました。また、男性向け、女性向けも意識して、物件選びにおける男女あるあるのお悩みを入れたクリエイティブにすることで共感を狙いました。

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豊川:
結果としては、各指標は全体的にアップした のですが、特に広告想起が非接触者に比べて高いデータが出ました。また、クライアント企業の中で、話題化メディアとして今までにはない選択肢としてオーディオアドの可能性を見いだせた取り組みになったと聞いています。

まとめ

オーディオアドについて以下の通りまとめることができます。

・ストリーミングを中心に市場として高い伸びを示している。
・動画広告とは視聴形態が違うところがポイントで、完全視聴率は100%に近い
・“ながら視聴”なので、広告が邪魔に感じにくい
・アッパーファネルだけでなく、ミドルファネルでも効果的な使い方ができる
・動画に比べて圧倒的に費用が安いため、複数本制作が可能

最後にお二人のオーディオアドにおける今後のチャレンジを聞かせてください

豊川:
はい。次のオーディオアドの広告実施の機会がある際には、アイレップとしてクライアント企業のさまざまなコンバージョンデータを使いクリエイティブのプロトタイプを実施したいです。今回上昇した指標以外の指標を上げるためのPDCAを回してみたいです。

吉田:
そうですね。今回の事例は短期間のキャンペーンだったので、PDCAまでを回すことが難しかったのですが、長期的な取り組みの中でオーディオアドを取り入れていってみたいです。

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<プロフィール>

豊川 小百合

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2013年大手CM制作会社にてプロダクションマネージャーとして入社後、通販・通信・化粧品など話題となるCMの制作進行をメインで担当。前職での制作ディレクションを生かし、TV-CM、コンテンツマーケティング、デジタルメディアを横断した企画・制作に従事。成果につながる動画広告を多数制作。

 

吉田 真央

吉田プロフ写真
2015年4月、アイレップにアカウントプランナーとして入社。東京、大阪二拠点で博報堂DYメディアパートナーズに常駐し、デジタル領域の運用やプランニングを担当。その後、2019年4月にコピーライターに転身。アイレップの強みであるプロトタイプ型テレビCMの企画・コピーライティングや、Spotify、Instagramなどのメディア文脈に沿ったクリエイティブ表現を開発。

この記事の著者

DIGIFUL編集部

「DIGIFUL(デジフル)」は、(株)アイレップが運営する「デジタル時代におけるマーケティング」をテーマにした、企業で活躍するマーケティング担当者のためのメディアです。

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