【第1回】DX入門:そもそも、DX(デジタルトランスフォーメーション)って何?

2021.02.24

Share

この記事の著者

竹内 哲也

NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。NEWSY、タービン・インタラクティブ、シェアコト3社の社外取締役も兼任。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。

NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年...

昨年は、DX元年と言えるほど、書籍やインターネット上で、DXという言葉がバズワード的に流行しました。直訳すると、「デジタルの力を活用して」「トランスフォーム(改革)していく」ということになりますが、DXという言葉を語る人のバックグランドや立場によって、さまざまな捉え方をされる言葉でもあります。今回、DX入門ということで、大手コンサルティングファームでパートナーを歴任され、現在、ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループの代表を務めている大野隆司さんをお招きし、DXの潮流を紐解いてもらいたいと思います。

竹内 哲也(以下、竹内):
「DX」という言葉がずいぶんとポピュラーになってきています。一方でバズワードのようにもなっているようにも感じます。まずDXの定義といったものから伺いたいと思います。

大野 隆司(以下、大野):
言葉の指す内容が百人百様という点ではバズワード化しているきらいはありますね。デジタルの活用であるとか、変革を目指すのだといったことについては、ふんわりとした共通認識はあるわけですが、現在はあれもこれもなんでもDXという状況ですね(笑)。

私としては、「いままでの延長線上では未来は無い。なにか変わらなければ生き残れない」という健全な危機意識を企業が持つきっかけになっている点に限れば、バズワードでもなんでもポピュラーになったことは良いことと捉えています。

竹内:
なるほど。ということは、いろいろ問題意識もあるということですね。

大野:
はい。一番の問題意識は「X、つまり変革のゴールというかレベル感のようなもの」が、まちまち過ぎるという点です。DXに関するさまざまなアンケート調査結果などを見ると、DXに取り組んでいると回答する企業は7割とか8割とかの高いレベルなのですが、そこで取り組んでいるテーマは「業務効率化」や「コスト削減」というものが上位にランクされています。

DXの定義については、経済産業省をはじめ、多くの機関や企業が提示していますが、共通しているキーワードとしてデジタルやデータの活用があるのは当然として、もうひとつ「競争優位の確立」というものがあります。多くの企業が取り組んでいると回答しているDX(前述の業務効率化やコスト削減など)が、本当にその企業の競争優位の確立につながるものなのだろうかという強い問題意識がありますね。

竹内:
業務効率化やコスト削減は、競争優位の確立のために重要な取り組みにも思えますし、多くの企業が継続的・恒常的にこれらの取り組みを進めていますよね。

大野:
もちろんです。私もこれらを否定するつもりは全くないです。ただ、経営者やDXプロジェクトのオーナーの方々に自問自答してもらいことは、「業務効率化やコスト削減の取り組みの先に、競争優位が確立された世界が現れると本当に信じているのですか?」ということです。

たとえば30%の業務効率化を達成した先に、また、たとえば30%のコスト削減を実現した先に、競争優位が確立されるのだろうかということです。もちろん、ここで仮にあげてみた30%という数字は多くの企業にとって、簡単には実現ができない、かなり大きな数字でしょうが、30%の業務効率化を実現したとして30%分の人件費や労務費をゼロにすることができるのでしょうか?

実際は、やってもらう仕事が無いからといって、解雇には躊躇する経営者が多いでのではないでしょうか。それでは「30%分のヒトを別の事業に振り向けたうえで収益化することができますか?」ということです。このいずれもできないのであれば、価格競争力などへの貢献は限定的と言わざるを得ないでしょう。

大幅なコスト削減が価格競争力を強めることで、競争優位の確立に直接効くという見方もできるかもしれません。これは確かにそのとおりではあるのですが、一方で「現状のビジネスを所与として価格競争だけで勝負し続けるのが正しいのですか?」という問いかけをしてみたいですね。

「DXのX(トランスフォーム)で目指すところ」について、しっかりと考えることができている企業は少ないとみています。

竹内:
たしかにそうですね。既存ビジネスの磨き込みの必要性はありつつも、たしかにディスラプタへの備えなどの視点も忘れてはならないものですよね。

「DXのX」の考え方についてはのちほど詳しく伺うとして、大野さんからみた「Xの観点からみて、これはちょっと問題だな」というDXの取り組みの典型例は、どのようなものがあるでしょうか?

大野:
まずは、業務効率化をDXと称した取り組みですね。ここ5年ほどRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が流行していますが、これは典型例でしょう。経費精算の自動化、手書き伝票の読み取り・入力の自動化、捺印処理の電子化、チャットの導入、オンライン会議システムの導入といった、読者の方も身近なものが多いのではないでしょうか。

たしかに業務効率化を進めることは大事です。多くの企業をみてきて無駄な処理というのは多い認識です。コンサルティング会社でもけっこうそういう処理は多かったですね(笑)。

ただ、さきほども申したように業務効率化の先にXがあるのかという点が問題ですね。単なる業務効率化の先にXがある確率は非常に低いわけです。さらに深刻というか根深い問題点として私が懸念しているのは(これらを企画したり実行したりする)DXのオーナーやリーダーが「業務効率化はXにつながる!」と本気で考えているのではないかという点ですね。

竹内:
その理由はなんでしょうか?

大野:
労働生産性の向上の誤解が大きいと思いますね。

竹内:
OECD(経済協力開発機構)のなかでも日本の労働生産性の低さはしばしば問題提起されていますよね。産業構造が異なる国々のそれを単純に比較することには一定の限界があるとは思います。
労働生産性を一言で言えば、付加価値額÷投入量ということになります。分母を下げるか、分子を上げれば労働生産性は上がることになります。例えば、アイレップの場合はマーケティング・コミュニケーション領域の支援が中心なので、いかに顧客の売上をあげていくかが主な支援テーマになります。つまり、付加価値額を上げるという点が中心となっていますが、さきほど大野さんも指摘されたように無駄な作業、つまり投入量でも問題は多すぎるようにも思います。

大野:
おっしゃるように業務効率化は分母を下げることを目指すわけですね。それが大事でないとは言いませんし、不断の改善の努力は不可欠だと思っています。

ただ、効率化をおこなったとしてそれが財務的な数字として現れてくるかは、先ほども述べたように雇用慣習の問題から難しいですし、なにより効率化は現状のビジネスを所与としていますね。この点こそが深刻な問題だろうと考えています。

やはり分子をいかにして上げていくかを考えるのが「X」であるべきだろうと考えるわけです。さきほど竹内さんの指摘したディスラプタに備え、新しい市場・顧客を求めていくためのXであるべきではないのかということです。

さきほどの労働生産性の誤解というのは言い過ぎかもしれませんが、こういう取り組みのプロジェクトオーナーやリーダーはビジネスを考えるというか、経営の将来から考えるということに不慣れなんだと言わざるを得ないでしょうね。それが故に、確信犯的に最初から「X」を矮小化するかスコープ外にしているってこともあるのではないでしょうか。

竹内:
このような効率化のDXの案件でも大きな予算が投じられているものは多いと思いますが、やはり大きな予算が投じられていながら、問題だなというDXはありますか?

大野:
インフラの刷新や基幹系システムの刷新というDXの取り組みも目にすることが多く、問題だなと思っています。

インフラをオンプレミス(社内に構築するシステム)からクラウド環境へと置き換えるリフト&シフト、老朽化したシステムを刷新するモダナイゼーションやレガシーマイグレーション、新しいシステム開発環境の導入、ネットワーク環境をVPNからZTNA(ゼロ・トラスト・ネットワーク・アクセス)への変更、システム開発環境へのGitHubの導入などがよくみられるものでしょうか。

誤解のないように言っておきますが、これらの取り組みが無意味だというわけではありません。Xをおこなうと、これらの取り組みの一部はどこかで必要になってくることはあるわけです。

たとえば新しいビジネスをローンチし、そこではスマホアプリが顧客接点であり販売の接点になるケースなどは多いわけですが、そこで売り上げた情報は基幹系の財務会計システムと連携し、決済処理のシステムへと連携することが必要になります。このときに基幹系システムの改修や接続に何ヶ月もの時間がかかってしまってはビジネスのスピードを削ぐこととなります。

オムニチャネルやOMO(オンラインとオフラインの連携)といわれるものでも同様です。たとえば在庫ひとつとってもオンラインとオフラインで一元管理することが望ましいわけですが、その場合には基幹系の在庫管理システムとのリアルタイムに近い連携が必要となってきます。

長い歴史をもつ企業ほど基幹系システムは複雑化しているものなので、インフラの刷新や基幹系システムの刷新の必要性はあるわけです。

基幹系システムの刷新に関しては、ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)のサポート期限が2020年代半ばに切れるといった現実もあるのは事実でしょうね。

竹内:
必要性を一定は認めつつも、問題だと思うのはなぜでしょう?

大野:
ひとことで言えば、刷新の後に「Xとして、ビジネスとして何をするのか、どうありたいのか?」のビジョンというかアイデアが無いままに取り組んでいることが多いからです。アナロジーでの説明はあまり好きではありませんが「原野を整地した、上下水道、ガス、電気、ネットワークも通した。あとはこの土地をどのように使って稼ぐのかは、だれか考えてくれ」というようなものです。

これらの刷新の取り組みにせよ、先の業務効率化の取り組みにせよ、Xが見えていない中で数億円、数十億円という投資をするのは経営というよりかは「ギャンブル」でしょうね。

竹内:
DXの定義の中には、デジタル技術とあわせてデータの活用も共通して唱えられています。アイレップでもDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)やCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)の導入などのデータ基盤整備の支援などもしているわけですが、データ関係ではいかがでしょう?

大野:
データを活かすことが重要であり、それの巧拙が生命線となるビジネスや産業があるのは間違いないでしょう。ここ数年「データが構造化されているいないを気にせずに、貴重な資源であるデータを集めておこう」といったデータレイク(データを一か所に貯める箱)構築の取り組みをみることも増えましたし、これをDXの取り組みとしている企業も多いです。

ビジネスの規模が大きかったり、手掛けるビジネスの領域が広い企業ほど、「まずは自社で取得しているデータの集積・統合だ」と始める企業は多いですね。一方大企業に限らず、工場の製造データや、スマートフォンのアプリなどからのデータ収集を積極的に進めている企業も多いでしょう。

いずれの場合でもデータさえ集めておけば、そこから有意義なインサイトが得られるはずだと考えているのでしょう。「データは21世紀の石油」といったフレーズがありますが、「集めておかないことは資源の無駄になる」という恐怖心というか「もったいない」という気分もあるのかもしれませんね。

竹内:
アイレップの場合は、マーケティング支援がメイン業務になりますので、ターゲット顧客の発見や、見込み顧客となりうるターゲットセグメントの興味・関心などを把握するために、DMPの構築・導入を進めることがほとんどです。DXでデータの集積を進める企業の場合はどうなのでしょうか?

大野:
目的を明確にしているかどうかが問題ですね。
ややおおざっぱな言い方をすれば「とりあえずデータを集めておけ!」といった取り組みが多いのではないでしょうか。これは「データさえ集めておいて、あとで分析さえおこなえば、なにかインサイトがでてくるはずだ!」という過剰な期待があるのかもしれません。ただ、残念ながら無目的に集積しただけのデータから「なにか目新しいインサイト」がでてくるというほど都合良くは進みません。

データレイクを構築している企業も、POCの途中経過はさておき、実ビジネスで満足のいくインサイトを得られているなど、実利につなげられているケースを聞くことは少ないですね。データレイクならぬ「データの沼」などとも言われたりしていますね。

もうひとつの問題点は、自社が持っているデータだけで十分なのかということです。
たとえばデータを保有・分析することで顧客を深く理解して、彼ら彼女らに新しい商品・サービスを提案していくということを狙っている企業は多いかと思います。ただ、自社で運営するコンビニや百貨店やネットでの購買データなどから、顧客を把握しようとしても限界があるということです。ECの企業が同様のことをおこなっても限界があります。

これは考えてみれば当たり前のことなのですが、そもそも自社との接点だけで顧客を理解することなど無理だということを再認識する必要があるでしょう。よって、もし充実したデータを欲するならば、それを購入するか、他企業と連携することを考えることが必要となってきます。後者についてはエコシステムと呼ばれたりもしますが、これはデータをどうのこうのというレベルよりも数段上のレベル、企業のレベルの意思決定となってきます。

ここまででおわかりのようにデータについても、「なんのためにおこなうのか?」「なにをしたいのか?」を明確にしたうえで、「どのようなデータが必要なのか?」を考えて進めていくことがとても重要だということです。

ちなみに、この場合には企業間でデータ連携などをスムースに低コストでおこなえるデジタルの仕組みが必要となってきます。この段階で、先のインフラの刷新などは貢献が見えてくる可能性もあるということになってきます。目的が曖昧なままではいけません。お金と時間の無駄遣いになる懸念は小さくありませんね。

竹内:
最後にお聞きしたいのですが、なぜこのようなDXの取り組みを、それなりの予算を投入して進めてしまうことになるのでしょう?

大野:
企業のXを考えるのが手に余って、面倒くさいからじゃないですかね?(笑)

竹内:
なるほど、手に余り、面倒くさいからですか…。たしかにCIOだった方、システムベンダーでプロジェクトマネージャーだった方がDXの推進者だとしたら、企業の、あるいはビジネスのXを考えることは完全に守備範囲外になりますからね。
次回は「DXのXをどう見つけるか?」といったテーマでいろいろお話できればと思いますが。

大野:
そうしましょう。

 

<プロフィール>

大野 隆司

大野 隆司

ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループ合同会社
代表社員

34年間にわたり経営コンサルティング業務に従事。この20年は(株)KPMG FAS、(株)ローランド・ベルガーなど外資系コンサルティングファームにてパートナーを務め、2019年末に「経営戦略×デジタル」にフォーカスすべく独立。

競争戦略策定、新規事業やイノベーション創発、IT・デジタル戦略策定のコンサルティングを多くの業界・企業に提供。IT・デジタルを活用したオペレーションのデザインやプログラムマネジメントの支援も多い。

現在は、大手情報サービス、大手小売り、大手広告代理店、大手や中堅のシステム会社などに、DXやイノベーション創発のコンサルティングを提供中。早稲田大学政治経済学部卒業

2018年、生まれ育った東京から湯河原に三頭の豆柴犬と移住。湯河原や熱海の地域活性化を目的とした、一般社団法人ひと・まち・ライフ・デザイン協会の副理事長も務める。

 

t_takeuchi-1

竹内 哲也

株式会社アイレップ 執行役員
ソリューションビジネスユニット ユニット長

NTTデータ、コーポレイトディレクションなどを経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年よりアイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度よりアイレップ専任執行役員。ソーシャルメディアマーケティング支援企業のシェアコト社外取締役も兼任。専門は事業開発。早稲田大学政経学部卒。著書に『統合デジタルマーケティングの実践: 戦略立案からオペレーションまで(東洋経済新報社)』や、5月29日に新刊『デジタル時代の基礎知識『BtoBマーケティング』(翔泳社)』を上梓。

Share

一覧に戻る

おすすめのダウンロードコンテンツ

人気記事ランキング

人気のタグ

無料メルマガを購読する

DIGIFULのSNSをフォローする

  • Twitter
  • Facebook
  • Linkedin