「ながら聴取」で成長する音声SNSはどのように企業と消費者をつなげるのか

2021.03.30

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コロナ禍でおうち時間が増えた昨今、仕事や家事など作業をしながらの「ながら聴取」が可能な音声メディアは、情報量の多さや利便性の高さから、日常的に利用するユーザーが増えています。また、企業にとってはファンとの接点を増やす新たなチャンスにもなっておりさまざまな方法でマーケティング活動に取り入れられています。

本記事ではユーザー同士の音声コミュニケーションが可能な音声SNSにスポットを当てて、各メディアの特徴やユーザーの利用傾向を踏まえて企業のマーケティング活動への活かし方を探ります。

1.音声メディアの成長

まず音声メディアとは、ラジオを始めとする“音声コンテンツ”を配信するメディアです。さまざまな種類があり、オーディオメディア、音声配信メディアなどとも呼ばれます。音声メディアの代表例を下記に記載します。

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(図1:音声メディアの種類)

ポッドキャスト:録音した音声ファイルをインターネット上に公開して配信する仕組み。

オーディオブック:本の音読を聞くことができるサービス

インターネットラジオ:アプリやブラウザで聴取可能なラジオ

音声SNS:企業だけでなく一般ユーザーも音声コンテンツの配信が可能なサービス。ライブ配信やコラボ配信などの 機能があり、ユーザー同士が音声やチャットでコミュニケーションを取れることが特徴

上記のようにさまざまなカテゴリの音声メディアがあり、コロナ禍でおうち時間が増えたことにより、仕事や作業の合間など「ながら聴取」をするユーザーは増加傾向にあります。以下データにもあるように、音声メディアは聴取に専念しているユーザーが少なく、多くは何かをしながら聴取していることが分かります。

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参照元:MarkeZine 2019年8月26日「百聞は一見に勝てないのか? 音声広告の力を測る

(図2:多くのユーザーは作業をしながら音声メディアを聴取)

 

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参照元:ビデオリサーチ 2020年06月25日「新たな生活環境下でラジオリスナーが増加傾向~ラジオ聴取人数データ×生活者データによるリスナーの特徴とは~

(図3:コロナ禍の行動変化で全年代平均12%以上ラジオの聴取が伸びている)

 

これらを背景に音声メディアをマーケティングに活用する企業も増えています。本記事では、昨今話題のClubhouseなどユーザー同士のコミュニケーションが可能な「音声SNS」にフォーカスをして、企業のマーケティング活動にどのように活かすことができるのか、メディアの特性を踏まえながら探ります。
また音声SNSは日経トレンディと日経クロストレンドが「2021年ヒット予測ランキング」の19位に「個人ラジオSNS」を選出したこともあり、注目の領域といえます。

参照元:日経クロストレンド 2020年12月1日「21年は「音声版YouTuber」が続々 企業と消費者をゆるくつなぐ

(図4:日経クロストレンドが2021年ヒット予測ランキングの19位に個人ラジオSNSを選出)

2.音声SNSで企業と消費者はどう繋がるのか

音声SNSは、InstagramやTwitterなどのSNSとは異なり「ながら聴取」が可能で、企業にとってはユーザーとの接触機会を増やすことにもつながります。
また、配信者とリスナー で会話ができる機能を実装しているサービスが多く、ユーザー同士の距離が近いことが特徴です。Instagramライブでは芸能人やインフルエンサーが配信している間、リスナーはコメントを残したり、コラボ配信者として招待してもらったりすることで憧れの人と話すことができますが、音声SNSでもそれが可能です。

音声SNSの場合は顔が見えない分、着飾る必要もなく、ライブ配信のハードルが下がるのではないでしょうか。このように配信者とリスナーの接触機会が多くコミュニケーションハードルが低い音声SNSは、インフルエンサーや企業がファンとの会話を増やし、つながりが強固なコミュニティを作ることに貢献するのでははないかと考えます。

では実際、どのように音声メディアをマーケティングに活用するのか、代表的な各サービスの特徴を踏まえながら探ります。

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(図5:代表的な音声SNSの機能比較表)

2-1.アクション機能で距離を縮める

配信者とリスナーは各メディア のさまざまな機能を活用して密接なコミュニケーションを取ることが可能です。
例えば、音声SNSの多くはライブ配信中にリアルタイムでリスナーがコメントを投稿できたり、投げ銭機能がついていたり、メディアごとにコミュニケーションを活性化させるユニークなアクション機能が実装されています。

アクション機能には一例として以下のものがあります。

コメント機能:リスナーが配信者にテキストでコメントを送ることが可能で、配信者はそのコメントから質問やリクエストに応えます。メディアによっては音声でコメントを残すことが可能な機能もあります。

スタンプ:ライブ配信中、リスナーは配信者へのリアクションとして、いいね!などのスタンプを送ることが可能です。

投げ銭:ライブ配信中にリスナーはアイテムを購入し、配信者への応援として送ることが可能です。

挙手機能:ライブ配信中にコラボ配信したいという意思をリスナーから配信者に送ることが可能です。配信者はコラボ配信可能であれば、挙手したリスナーを配信者側に引き上げて一緒にトークすることが可能です。Stand.fmやClubhouseで、有名人に相談をする企画などでよく活用されている機能です。

メディアによってアクション機能は異なりますし、コンテンツの内容やリスナーとの距離感もそれぞれで特徴があり、配信者側も工夫を楽しみながら配信をしています。
たとえば誰でも音声コンテンツの配信が可能なSpoonは、ライブ配信・Podcast配信の他に「TALK」という音声コメント機能の活用で盛り上がっています。TALKをつかって決められたセリフを複数のユーザーがさまざまな声で読み上げていき、朗読コンテンツを作っています。

Clubhouseでは芸能人やビジネス界隈の著名人が「挙手」をしたリスナーの質問に答えたり議論をしたりなど、ユーザー同士の新たなコラボレーションが生まれています。
Stand.fmでは、ライブ配信中のチャット機能でコメントや質問をすることができ、リスナー同士でも会話をしながら仲を深める使い方がされています。

このように配信者・リスナー間に限らず、ユーザー同士をつなぐアクション機能の多い音声SNSですので、各サービスの特徴やユーザーの利用傾向を捉えて活用することで、企業はサービスのファンとなり得るユーザーと密にコミュニケーションを取ることが可能になるのではないでしょうか。

2-2.配信機能の使い分けでファンコミュニティを形成する

コミュニティの築き方も、各メディアのどのような機能を活用するかによって傾向が異なります。音声SNSには全員が聴取可能なオープン配信、課金者やフォロワーなど特定のユーザーのみ聴くことができる クローズド配信などさまざまな配信機能があります。ファンにどのようなメッセージを配信し、どのようなコミュニティを築きたいか、また配信者の知名度によってオープン配信とクローズド配信を使い分けることで、それぞれのフェーズに適したコミュニケーションが可能になります。

例えばクローズド配信機能を活用することで、利用頻度やエンゲージメントの高いリスナーを中心にコンテンツを届けることができ、配信者のコアなファンを中心としたコミュニティが形成されます。
Voicyでは中田敦彦さんが自身の代表コンテンツである「YouTube大学」を「聞くYouTube大学」と題して有料のクローズド環境で配信しています。YouTubeよりも、より濃いコミュニティがVoicyで形成されているのではないでしょうか。

Clubhouseではオープンルームを使って、決まった曜日の決まった時間に配信する「番組」形式を取り入れるユーザーも増えています。
番組のような配信形式にすることで定期的にClubhouseに「集合する」文化ができ、リスナーが常連化しやすくなります。また配信日をあらかじめ決めておくことで事前告知も可能なため集客にもつながります。

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(図6:Clubhouseで予定されている配信はアプリ内で日時が表示される)

2-3.他サービスとの連携で、コミュニティを広げる

各音声SNSはTwitterやInstagramと連携しているものが多く、ライブ配信 の告知や新規ファンの獲得に活用されています。

多くの場合、プロフィールにTwitterやInstagramのリンクを設定することができ、リスナーは音声SNSから配信者のTwitter・Instagramのアカウントへ遷移してプロフィールや過去の投稿を閲覧するとこが可能です。それによって配信者に対する理解を深めより一層ファンになったり、音声SNS外でのコミュニケーションが生まれたりします。

またリスナーはお気に入りの音声コンテンツを自身のSNSで拡散し、友人(フォロワー)に勧めることも可能です。リスナーがSNS上で広めることにより、企業にとって偶発的な出会いのチャンスが増え、新規ファン獲得のチャンスにもつながるはずです。

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(図7:Clubhouseでの配信を宣伝するツイート)

 

このように企業は音声SNSと他SNSを平行して活用することでファンとの接点を増やしたり、テキストや写真を含めた多様なコミュニケーションをとったりと、さまざまな角度からユーザーにアプローチすることでコミュニティを広げることができるのではないでしょうか。

3.企業の音声サービス活用マーケティング事例

ここまで音声SNSの機能やユーザーの活用傾向を踏まえながら企業がマーケティングにどのように組み込むかを探ってきました。しかし音声SNSはまだまだ発展途上のプラットフォームであり工夫次第でマーケティングへの活用方法は無限大です。

ここからは、実際の企業による音声SNSの活用例や、音声メディア上でファンによってコミュニティが醸成された事例をご紹介いたします。

3-1.Voicy:株式会社フライヤー「荒木博行のbook cafe」

こちらは、株式会社フライヤーによるVoicyでの企業アカウント開設事例です。株式会社フライヤーは、2013年6月に設立された「本の要約サイトflier」を運営する会社です。Voicyでは、企業のチャンネルを開設し、配信をおこなっています。

「学びのすそ野を拡げる」ことを目的とし、自社サービスとVoicyをかけ合わせて、多くの人が受け入れやすい形で情報を届ける意図で配信を始めました。その結果コアなファンコミュニティの形成につながりました。以下は株式会社フライヤー社員の方のコメントです。

本の要約というサービスが、時短であり効率的な、ともすると無機質なサービスにも見えると思うのですが、とはいえ本も人が作っている。そこにある温かみとか人間味みたいなものをどうやったら伝えられるのか?と思ったときに、Voicyにある声の温かみだったり、ありのまま表現できるというところがすごくハマるなと。事業に対して、すごくポジティブに作用してくれているなと感じています。
(株式会社フライヤーCEO大賀康史さん)

それからFacebookの秘密のグループで、リスナーさんのグループを作って交流しているのですが、先日オフ会も開催しました。多くの方が集まってくれて、そのなかでチャンネル内容にかかわるかなりマニアックなクイズもしたのですが、みんなちゃんと分かるんですよ(笑) 音声で発信したことで、コアなファンコミュニティまで出来て、本当に嬉しいです。
(株式会社フライヤー荒木博行さん)

引用元:Voicy Journal 2019年5月30日「ファンコミュニティができる企業チャンネル『荒木博行のbook cafe』

3-2.Clubhouse:NIKE「SNKRS」

こちらは、スポーツブランドNIKEのファンによって「SNKRS」というコミュニティが自然と誕生した事例です。

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(図8:Clubhouse内のコミュニティ「SNKRS」)

 

Clubhouseではユーザーが「Club」というコミュニティを立ち上げることができます。こちらのSNKRSというClubは、NIKEのファンによって最新のNike Jordan、Yeezyの情報を交換する場として立ち上げられました。
配信をアーカイブとして残せないClubhouseの特徴を使って、コアなファンが情報を交換する場としての盛り上がりが期待できます。こちらはファンによって立ち上げられたコミュニティですが、ブランドにファンをもつ企業であれば、このようにコミュニティを作成してファンとのコミュニケーションを図ることに活用できるのではないでしょうか。

3-3.【番外編】Clubhouse:NewsZero 落合陽一さんによる裏配信

こちらは、テレビ番組の裏配信としてClubhouseを活用している事例です。

日本テレビのNewsZeroでコメンテーターを務める落合陽一さんが、CMの合間にClubhouse内に立ち上げた「News ZERO room」で番組の裏話をし、CMが明けるころにまた放送に戻るというテレビ番組の裏配信をClubhouseでおこないました。さらに、番組終了後は、落合さん以外の出演者もClubhouseにあつまり、放送の反省会やClubhouseとの連携について議論をする一幕もありました。
リアルタイムで裏配信をおこなうことで、テレビのリスナーとの距離を縮め、リスナーはより一層NewsZEROや落合さんのファンとなり、次回以降のテレビ番組聴取にもつながっているのではないでしょうか。またClubhouseの配信はアーカイブとして残せないという特徴が、裏配信という企画のハードルを下げ、「今しか聞けない」というプレミアム感でリスナー増加につながったと考えられます。

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(図9:NewsZEROとCluchouseの連携配信について言及する落合陽一のツイート)

 

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(図10:NewsZEROのCluchouse配信)

まとめ

今回は、企業とファンをつなぐ音声SNSの可能性について探りました。まだまだ発展途上の音声メディア市場において、マーケティングへの活用可能性は無限大です。

情報爆発社会と言われる現代でユーザーは情報の取捨選択をおこないます。そのようななか、より密接により適切にターゲットユーザーとの接点をもつ手段のひとつとして音声SNSおよび音声メディアの活用を検討されてはいかがでしょうか。

この記事の著者

DIGIFUL編集部

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