改めて理解する、事業戦略とは?

2021.07.29

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この記事の著者

米田 吉宏

ユナイテッド株式会社
執行役員

慶應義塾大学経済学部卒業後、 2010年株式会社電通入社。2013年ボストンコンサルティンググループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。

ユナイテッド株式会社
執行役員

前回はオペレーション領域におけるDXについてご紹介しましたが、今回はDXと戦略の関係についてご紹介します。

改めて理解する、事業戦略とは?

冒頭ではDXとの関係性が特に深い、事業戦略と機能別戦略との関係性についてお話したいと思います。

戦略策定概論(波頭亮著、産業能率大学出版部)では、戦略の定義は以下の通りとされています。

“競合優位性を活用して、定められた目的を継続的に達成し得る整合的な施策群のまとまり”

大事なのは定められた目的を遂げる為の方針や複数の施策の全体像ということです。巷では、何でもかんでも戦略と呼ぶケースが少なくないようですが、本来は適切なレベル感の目的で、かつ、結果的に複数の施策群からなるものと理解いただくのがよいと思います。目的については、「他社の売上成長率を超える」、「赤字を解消する」、「市場シェア何%」、「利益減少に向けたITシステムコストXX億円減額」等の事業、あるいは、全社の経営課題に基づいたことが設定されると考えています。故に、単一の施策実行では達成が難しく、結果的に複数の施策を立案し実行していく必要があると考えています。

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ここからは戦略の中でも経営企画、あるいは、事業責任者が立案に関わることが多い「全社戦略」と「事業戦略」についてご説明したいと思います。なお、今回は事業戦略に近いものとしてマーケティング戦略がありますが、こちらの定義や事例等は次回配信します。

全社戦略

全社戦略とは「企業全体として、どのような存在であり、どのような事業を通して、どのような状態を実現するのか?」を示したものです。

もう少し分解すると、パーパス/ビジョン/ミッション、事業ドメイン、事業ポートフォリオ戦略等からなります。

大胆な全社戦略の転換を推進している企業例としては、日立グループが挙げられます。日立物流や日立キャピタル、日立工機、日立国際電気、クラリオン、直近では御三家と言われていた日立化成も売却されました。今後の成長戦略である「デジタル製造業」への進化にシナジーが薄いとされる、こうした企業の売却を推進する一方で、シリコンバレーに本社を置き、デジタルトランスフォーメーションの支援システムを手がけるIT企業大手のグローバルロジック社を一兆円超で買収することを発表。2018年終値が約4,700円程度だったのに対し、市場から前述の全社戦略が評価され2021年7月16日の株価は、約6,400円まで向上しています。

上記事例はポートフォリオ戦略の見直しを図り、今後成長を牽引する事業への経営資源の配分の最適化を推進している事例です。

事業戦略

本日の主題である事業戦略ですが、全社ではなく、特定の事業の戦略を掲げることを指します。各事業に限定して戦略を具体化することを事業戦略と言います(ちなみに事業ではなく、本社部門やIT等の機能領域別の戦略は、機能別戦略と言われます)。

少し古い事例になりますが、モスバーガーを事例に取り上げたいと思います。
業界トップのマクドナルドとの差別化を図るため高品質・高価格のポジショニングでの成長を志向しました。ポーターの競争戦略論によれば、事業戦略の類型は「コスト・リーダーシップ」、「差別化」、「集中化」とされます。

モスバーガーの事例は、マクドナルドに対して差別化を図ったと言えるでしょう。マクドナルドが低価格な商品セグメントで多くの消費者に支持される一方、高品質であれば高価格でも良いとして購買する消費者をターゲットに経営資源を集中して成長を志向しました。
上記の事例は自社事業(単一事業のため、事業戦略と同義)を、競争環境を踏まえてどう位置づけるか?という切り口で説明させてもらいました。

他には、例えばホテル予約サイトであるHotels.comは自社でホテル予約から始まっていますが、その後ホテル予約した顧客の航空券を手配するサービスを始めることでさらなる成長を志向してきました。有名なアンゾフのマトリクスという戦略のフレームワークがあります。既存顧客に対して、新しい商品を販売することで更なる成長を目指す、という考え方です。

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戦略検討においては自社事業の位置付けから検討するときもあれば、自社の抱えている顧客、製品郡をどのように拡販していくか?の切り口から考えることも、その他のアプローチで戦略を立てることもあります。

DXと事業戦略の関係

これまでの戦略の説明をもとにすると、DXは事業戦略を達成するための施策のひとつ、あるいは、施策を実現するためのシステム基盤の変革プラン等と位置づけられるものです。事業戦略における目的を果たすための施策、言い換えれば手段でしかありません。

プロセスとして、他社がXXというDXを行っている⇒XXという効果が上がっている⇒自社もこうした取り組みで売上を上げられるのは?と検討し、目的を「デジタル施策投入による売上拡大」と設定。その後改めて他社が行っている事例に依らない売上向上に向けた施策を広く洗い出したうえで、優先順位をつけるという進め方であれば問題ありませんが、DX自体を実行することが自己目的化することは避けるべきです。

そうした進め方をしてしまうと、「投資実行後の成否の振り返りができない(目的がなく、ゴールがなく振り返られないため)」「十分な投資コストが得られない(期待するリターンが想定できないため)」、「社内で十分な協力が得られない(目的やゴールがない中では従業員が納得しにくいため)」という状況を生んでしまいます。

今回は、事業戦略におけるDXの位置付け例を整理してみましたので、DXがどのような事業戦略上の目的達成に貢献するのか?を理解する一助になれば幸いです。

付加価値向上

自社のデータや新しいプロダクトを付加することで、顧客単価向上を図ること。

■ヤマト運輸
法人事業において、発注情報や到着予定情報、通関関連情報などといった情報をシームレスにデジタル化することで、サプライチェーン全体の可視化を実現。これによりサプライヤーやベンダーは出荷作業の平準化や簡素化、在庫最適化を支援。

■ブリヂストン
<タイヤ事業>
既存の技術に分子CAEや構造CAE(製品開発の初期段階から、コンピュータを用いた仮想試作・仮想試験を十分におこない、できるだけ少ない試作回数で、高品質な製品開発を行うためのコンピュータを活用した設計技術)などといったデジタル技術を組み合わせたシミュレーション技術によって開発工数や試作タイヤの削減。
また、乗用車向けのサブスクリプションモデルの展開やタイヤ選びにAIを活用することで顧客経験価値の向上を図る。

<ソリューション事業>
デジタル技術を用いた高度設計シミュレーションを活用することで、鉱山のレイアウトや車両の走行ルートなど、顧客ごとに異なるオペレーションに最適化した鉱山車両用タイヤ「MasterCore」の開発。また、鉱山車両データをモニタリングするツール「iTrack」やタイヤライフサイクルを管理するデジタルプラットフォーム「Otaraco」を活用し、独自のタイヤライフ予測技術を確立。これらにより、顧客の安全で経済的かつ効率的、環境にも配慮した現場オペレーションの実現につながるソリューションを提供。

顧客体験向上

顧客のサービス/プロダクト利用時の利便性を高め、LTV向上につなげること。

■Spotify
サブスクリプション型の音楽配信サービスを提供。ユーザーがさまざまな曲を時間場所問わず楽しむことができるようになったほか、もともと CD を出していたアーティストだけでなく、Spotify で人気を得るアーティストが出始めている。また事業者としてもサービス提供時にかかるコストがCD レンタルのときよりも抑えられており、CD レンタルの市場をディスラプト(破壊)している。

■Netflix
定額制動画配信サービス。既存のコンテンツだけでなく、オリジナルコンテンツや独占配信を多量に組み込むことで圧倒的地位を確立。

■スタディサプリ
モバイル上や PC 上にて低価格で効率的に学べるオンライン授業を提供。ユーザー側は質の高い授業を塾に通うよりも低価格で受けることができ、事業者側は校舎代や講師の採用コストを抑えられることで、今まで塾にいた生徒のシェアを獲得した。

コスト削減

自社の業務効率化をシステムでおこなうことで、コストを削減すること。
(ファクトリーオートメーション、業務支援システム等)

システムの拡張性/セキュリティ向上 等

業務の基幹システムの拡張性がボトルネックとなり、新しいサービスやオペレーション変革の遅滞を解消することを目的にDXをおこなうもの。金融機関では、基幹システム(レガシーシステム)では新しいサービスへの拡張のボトルネックとなるため、大規模な投資を伴うシステムの変革を推進している。

他にも多々ありますが、主なものを記載させていただきました。ご参考になさってください。

DX時代の事業戦略の立て方のポイント

以上(1)と(2)を踏まえたうえで、DX時代の事業戦略の立て方について考えていきたいと思います。

事業戦略の主な検討プロセスは、3Cに代表されるような、競合・顧客分析、内部分析をもとにした事業における課題の抽出⇒課題を改善するための方針/施策の幅出し⇒施策の優先順位付けとなります。

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DX時代に至る前までは、施策立案段階でデジタル知識の重要性は高くなかったかもしれませんが、あらゆる産業でデジタル活用による飛躍的な業務効率化、高い顧客体験の提供が加速する中、自社だけデジタル可能性を踏まえた施策立案をおこなわなければ競合に比べて後塵を拝してしまいます。

上記図のように、施策立案段階ではデジタル活用余地、世の中での活用例を踏まえた検討をぜひおこなってください。

当社では、デジタル技術動向を踏まえた事業戦略策定を支援しています。興味がある方はぜひ一度お問い合わせいただければ幸いです。

次回はマーケティング戦略におけるDX事例を、具体例も交えて解説します。

 

〈参考文献〉
・波頭 亮、「戦略策定概論」、産業能率大学出版部、1995年
・オリヴァー・ガスマン、「ビジネスモデル・ナビゲーター」、翔泳社、2016年
・内田 和成、「BCG 経営コンセプト 市場創造編」、東洋経済新報社、2016年
・菅野 寛、「MBAの経営戦略が10時間でざっと学べる」、KADOKAWA、2020年
・Strategy&、「デジタルトランスフォーメーションと日本企業のチャレンジ」、
・ブリヂストン 「中期経営計画(2021-2023)進捗」説明会資料 2021年5月17日版
・MONOist、「ブリヂストンは強いリアルとDXで技術イノベーション、東京・小平を再開発
・味の素 「味の素グループのデジタル変革(DX)」資料

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