マーケティングや経営に人間中心という発想を ~新たな常識としてのブランド開発~ #1

2021.08.17

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この記事の著者

鈴木 智之

広告会社のストラテジックプランナーとして、さまざまなクライアントのマーケティング/事業支援に従事。

ブランド資産を活用した戦略構築に強み。

2021年2月アイレップ入社。
CSV/カテゴリイノベーションの実現を支援するストラテジーをテーマに活動。

MarkeZine 連載
https://markezine.jp/article/corner/792

広告会社のストラテジックプランナーとして、さまざまなクラ...

はじめまして、TEAM JAZZ Executive Strategic Plannning Director の鈴木 智之(すずきともゆき )と申します。

これから全5回に渡り、企業の経営やマーケティングに人間中心の発想を取り入れることの重要性、そしてその結果、マーケティングを含むあらゆる企業活動にはブランド開発の視点が必要となる、ということを述べていきます。

第一回は、僕が主張する「人間中心」を理解してもらうために、人間の理解についてお話ししていきます。

人間の理解

ダーウィンの進化論で有名ですが、我々人間(ホモサピエンス)の特徴として、二足歩行の習得による脳の肥大化が挙げられます。

進化の過程や、知能的に人間に近しいと言われるチンバンジーにはなく、人間(ホモサピエンス)のみに存在する脳の働きとして、3歳から5歳の間に習得される(自分と他人を置き換える)能力があります。

エンパシーの意味を辞書で引くと

感情移入。人の気持ちを思いやること。
[補説]シンパシー(sympathy)は他人と感情を共有することをいい、エンパシーは、他人と自分を同一視することなく、他人の心情をくむことをさす。
(デジタル大辞林・小学館)

シンパシーとエンパシー 。まさに人間を人間たらしめている能力ですね。

作家のハラリは著書サピエンス全史で、肥大化した脳による認知革命こそ、人類に人間(ホモサピエンス)しかいない理由なのだと述べています。

つまり、脳の理解なくして人間の理解は不可能と言えるでしょう。

脳の働きを実感してみる

「青」という漢字は、青という色を指す言葉です。

例えば青空や青い海、青信号や青春など、「青」という漢字から連想されるものは人によってさまざまでしょうが、「青」という漢字が指定する色は共通です。

でもよくみると、ここに表示されている「青」という漢字は青色ではありません。僕のモニターでは黒色で「青」と表示されています。

「青」とは青い色のことを指す漢字だが、その漢字の色は黒い色で表示されている。

なんとも不思議な事象ですね。

ここに人間の脳の働きが深く関与しています。脳の働きを感覚の入力から順を追って整理してみましょう。

人間の瞳(視床)は、光の波長のうち特定の領域(可視光)を識別できる機能を持っています。そして瞳(視床)で識別された光の波長は、神経を通じて脳へと伝わり情報として処理されていきます。

脳に届いた瞬間は光の波長の違いのみの情報が、脳の中で「青」という青い色を指す漢字という情報へと変換されていく。

上記の過程を脳の中のプロセスに絞って抽出してみると

白と黒の光の情報が脳に届く→白い部分と黒い部分の差分を認識する→その差分から文字のアウトラインを認識する→「青」という青い色を指す漢字として認識する
といったところでしょうか。

漢字や平仮名、アルファベットなどの文字は、言葉を記述するためのツールです。そして言葉は、読む以外に聴くことでも認識することができます。

アオ(ao)という音(空気振動)は、耳(鼓膜)で捉えられます。耳(鼓膜)には空気振動の特定の領域(可聴音)を識別できる機能があります。その耳(鼓膜)で捕らえられた空気振動の情報は神経を通じて脳へ届き、青という言葉として認識される。

言葉は読んでも聞いても同じ意味を指すのは当たり前ですね。

でもこの当たり前は、
・視覚を通じて認識された光の波長の情報
・聴覚を通じて認識された空気振動の情報

人間(ホモサピエンス)の脳の働きによって、全く異なる2つの情報が同じ意味を指している、ということなのです。

人間の脳ってすごい!素直にそう思います。

青と書かれた黒い漢字

小学校の国語の授業の時、鉛筆で青という漢字をノートに何文字も何文字も書いているとき、ふと思ったことがあります。

「これは青ではない」

「青」という漢字は青い色のことを指すものだとわかっているけれど、いま僕が書いている「青」という漢字の色は鉛筆の芯の色だ、と。

ノートの升目に幾つも幾つも同じ漢字を書いていたせいか、青という漢字を文字ではなく線の構成物として認識してしまい、脳による働きのどこかでバグが起きたのでしょう。

それにしても、言葉とは意味の塊ですね。

「青」という漢字は、黒い色で書かれようが、赤い色で書かれようが、それは青い色を指す文字(言葉)なのです。

これが日本語を使う人たちにとっての当たり前。「青」を「Blue」や「Bleu」に置き換えても同じことは成り立つので、人間(ホモサピエンス)にとっての当たり前と言えます。

その当たり前を無視して「これは黒じゃないか」などといちいち反論していたら、その人の社会生活は成り立たない。まさに人間(ホモサピエンス)は感覚より意味を重視する生物なのですね。

感覚所与と意識

二足歩行によって人間(ホモサピエンス)の脳は肥大化した。と冒頭に書きました。

肥大化した部分は主に大脳新皮質と呼ばれる部分です。皮質と記されるくらいですから薄い皮状のものが肥大化していった。この大きくなった大脳新皮質を頭蓋の中に納めておくために折り畳まれているから、脳には皺がある。

進化の過程でいうと、根元にあたる元々の脳の部分はあまり変化していなくて、そこから遠いところ、端の部分がどんどん伸びていったことになります。

この脳に、身体各所で感じる様々な「感覚」が神経を通して情報として伝わってくる。

この時の感覚が最初に述べた「青」という黒い漢字だとすると、白と黒の光の情報がまず脳に届く。届いた脳の領域はあまり進化していない部分です。そこから脳の肥大化した部分(大脳新皮質)へと情報が伝播していくうちに、白い部分と黒い部分の差分を認識する→その差分から文字のアウトラインを認識する→「青」という青い色を指す漢字として認識する、つまり意味が生まれた、ということになります。

瞳(視床)によって認識される光の波長や、耳(鼓膜)によって認識される空気振動の情報は、神経を伝って脳のそれぞれ異なる部位にまず届き、その情報が脳の新しい部分で交わって、ひとつの意味を持つ。

これは視覚や聴覚に限らず、触覚や味覚、嗅覚も同様で、すべての感覚入力は、脳の中で意味につながっていきます。

脳には、異質の情報をまとめてひとつの同じ意味にする、という働きがあるということです。

この働きのうち、脳に入ってきた時点の感覚情報を「感覚所与」、同じ意味を示す情報が「意識」と言います。

人間が日常生活を送っている時、脳の中では感覚所与よりも意識が優勢です。

だからこそ、黒で書かれた「青」という漢字を見て、青い色を連想することができるし、伝えることができる。

ここまでの理解を踏まえると、「青」という漢字をひたすら描いていた小学生の僕の脳は、バグを起こしたのではなく一時的に感覚所与が優勢の状態となり「これは青ではない」と思ったのでしょう。

差別化と独自化の違い

企業が常に向き合っている課題に、コモディティがあります。

コモディティと他との違いがなくなること。つまり他と同じ。

提供している財やサービスがコモディティに陥ってしまうと、途端に収益が減ってしまいます。

コモディティは他と同じと認識されること、つまり人間(ホモサピエンス)の脳の働きによって生まれる意識そのものです。先に述べたように脳は意識優勢なので、一度そういった意識が形成されると、それを覆すことは簡単ではありません。

したがって、あらゆる企業にはコモディティに陥らない(あるいはコモディティから脱却する)必要があります。

僕はSTRATEGYに関心があります。MARKETING STRATEGY/MANAGEMENT STRATEGY。

そしてSTRATEGYは、企業経営やマーケティング活動の成果に大きな影響を及ぼします。

競争戦略論の研究者にポーターさんという著名な学者さんがいます。彼の戦略論の変遷は大雑把に言うと、最初差別化、その後独自化です。

差別化とは他との違いを明確にすること。独自化とは比較されない状態であること。

このふたつは、実は似ているようで大きく異なります。

差別化には、その前提に「同じ」があります。

AもBもだいたい同じ。そう思われているという前提に立っているから、AはBとは〇〇という違いがある、と強調をすることで、Bとの差別化を図る必要がある、という考えです。

差別化を、人間(ホモサピエンス)の脳の働きから捉えると、大きな罠の存在に気がつきます。

他と同じ、という認識は意識そのものであって、差別化とは、同じという意識に対する働きかけであること。脳は意識優勢なので、一度形成された意識を覆すことは、簡単ではありません。

一方、独自化には「同じ」という前提がありません。
独自という前提に立脚する以上、他との比較に意味はなく、あくまで自らの信念を貫くことを重視します。

そして、その信念がユーザーや生活者にとっての価値となるとき、独自化はSTRATEGYそのものとなります。

ポーターが唱えるCSV(Creating Shared Value)の定義は、企業が社会ニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されている状態。とあります。まさに独自化そのものですね。

そしてこの独自化に、これまで述べてきた人間(ホモサピエンス)の脳の働きへの理解を加味した仮説の提示を持って、第一回を締めたいと思います。


<仮説>
ユーザーや生活者の、感覚所与への関与を通じた意識形成への働きかけこそ、独自化を実現する方策であり、コモディティという課題への対策でもある。

それではまた。

第二回は、マーケティング活動を人間理解に基づき検証する、です。

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