ブランディングとは何をすることなのか~4つのブランディング領域と企業事例~

2021.11.30

Share

いかなる企業にも節目がある。創業何周年といった記念日的なものから、外部環境の急変によって訪れるもの、事業の形態変化とともに訪れるものなどさまざま様々だ。こうした節目の時期を迎えた企業は、改めて自身の存在意義を問い直すことを余儀なくされる。自社は結局のところ誰のために存在するのか。その誰かは自社に何を期待しているのか、どのようにしてその期待に応えることができるのか。それは本当に自社にしかできないことなのか。言わば、企業にとっての壮大な「自分探し」のようなものかもしれない。

ブランディングとは、まさにこうした問いに対する答えを導き出し、顧客をはじめとするあらゆるステークホルダーに発信し、さらには共に拡大させていくプロセスそのものである。ロゴマークを作ったり、商標を取ったり、広告やキャンペーンを実施したり…。これらはブランディングをおこな行う手段の一部ではあるものの、決して目的そのものではない。節目を迎えた企業が、守るべき核を失うことなく、新しい自分へと変革していくための方法論が、ブランディングなのである。

本稿は「ブランディングとは何をすることなのか」を4つのブランディング領域に分けて整理し、実際の事例と合わせて紹介することで理解を深めて頂く構成となっている。各企業の置かれている状況によって取り組むべきブランディング領域は異なるため、読者の皆様は自身の企業が抱える経営課題にどの領域の活動が効果的であるかについて思いを巡らせながら読み進めていただ頂きたいと思う。

※本記事は博報堂コンサルティングのコラムより転載しました。
元記事1:https://www.hakuhodo-consulting.co.jp/blog/branding/branding_20190820/
元記事2:https://www.hakuhodo-consulting.co.jp/blog/branding/branding_20190913

各ブランディング領域の全体像

各ブランディング領域をそれぞれ解説する前に、まずは以下の全体像をご覧いただきたい。

図1

まず中心には、いかなるブランディング領域に取り組む場合でも共通して必要な0.ブランド提供価値(顧客の期待に対してブランドが提供する価値)の規定がある。ブランド提供価値は、後続のあらゆるブランディング活動の指針であり、中核となるため、必ず最初に規定することが求められる。

続いて、円の周辺には以下4つのブランディング領域が記載されている。これらのブランディング領域には上位概念や下位概念がなく、取り組むべき順番にも決まりはない。

1.ブランド・コミュニケーション … ブランド提供価値を社内外に発信する
2.ブランド・マーケティング … ブランド提供価値を起点にマーケティング活動を設計する
3.ブランド・アクティベーション … ブランド提供価値を起点にユーザー体験を設計し、施策を打つ
4.ブランド・マネジメント … ブランド提供価値を起点に自社(事業)ブランドをマネジメントする

それでは各ブランディング領域について、ひとつずつ解説していきたい。

0.ブランド提供価値規定:顧客の期待に対しブランドが提供する価値を決める

図2

我々は知っているブランド名やロゴマークを見ると、無意識に頭の中に様々なイメージを思い浮かべる。例えばナイキのスウィッシュマークからはアクティブでエネルギッシュなイメージを、アップルのリンゴマークからは最先端でスタイリッシュなイメージを思い浮かべるかもしれない。こうしたイメージに基づき、顧客はそのブランドを利用すればこのような効用が得られるだろうと期待して財布の紐を緩める。対して、ブランドはその期待に応えるべく、一貫した価値を提供し続ける。そうすることでさらに顧客のブランドに対する信頼や愛着が高まり、継続購買につながる。ブランド提供価値規定とは、こうした顧客の期待とブランドによる価値提供の構造を視覚化し、戦略的に設計することを意味している。

ブランド提供価値がどのようなものなのかをご理解いただくため、スターバックスの事例を用いて説明する。スターバックスの創業物語として有名なのは、CEOのハワード・シュルツ氏がイタリアのバールを訪れた際にアメリカにはなかったカフェ文化に感銘を受けてカフェ事業を開始したというものだ。しかしブランディングという観点から見ると、スターバックスの成功要因はその独特なブランド提供価値にある。シュルツ氏はイタリアのバールをそのまま模倣するのではなく、全く新しいブランド提供価値をそこに付加した。それこそが、家庭と職場につぐ「第三の場所=Third Place」という新しい居場所の提供だったのである。

スターバックスのブランド提供価値をフレームワークで表すと以下のようになる(※1)。

59074688394_03

このフレームワークは、ブランドの扇と呼ばれ、ブランドが約束する価値を規定する際に用いられる。上に向かって広がるピンク色の扇はブランドが価値を提供する相手であるブランドターゲットを表し、ブランドの思想や世界観に最も共感する層がどのような価値観を持った人々であるのかを示している。下に向かって広がるブルーの扇はブランド提供価値を表し、顧客に提供する価値の具体的な内容を示している。すなわち、このフレームワークを用いて規定されることは、そのブランドが「誰に(ピンク)」「何を(ブルー)」提供するブランドであるのか、ということである。

ブランドターゲット(誰に)

まず特筆したいことは、「ターゲット」という言葉遣いである。

ブランディングの作業で言及されるブランドターゲットはマーケティングターゲットとは異なる。マーケティングターゲットは、ブランドが提供する商品やサービスを実際に購買する層のことである。先ほどのスターバックスの事例に立ち返ると、スターバックスを訪れる顧客層は老若男女さまざまである。小さな子供向けのキッズビバレッジというメニューも展開されていれば、メキシコではスタッフが全員高齢者というスターバックスも誕生している。より多くの顧客に利用してもらいたいと願うのはビジネスをする以上は当然の願いだと言えるだろう。

一方で、スターバックスのブランドターゲットは「都会的で上質な生活空間を求める人」である。彼らはスターバックスの掲げるブランド提供価値である「第三の場所=Third Place」に最も深く共感する人々であり、実際に購買をおこなうマーケティングターゲットが憧れを抱く層である。ハリウッド映画でよくスターバックスを片手に仕事の電話をしながら忙しそうにタクシーに乗り込むビジネスパーソンのシーンがあるが、このような都会的な人物像に憧れてスターバックスを訪れる人は少なくない。ブランドターゲットは実在する必要はなく、ブランドを体現する人物のイメージ像として社内外に共有され、今後のブランディング活動全体の指針となるために規定される。

59074688394_04

上記のような目的から、ブランドターゲットを規定する際には、できる限り人物の背景となる価値観を描出することが重要となる。好きな音楽のジャンルや休日の過ごし方、暮らしにおけるモットーなど、その人の価値観を表す言葉を紡ぎ出す。

ブランドターゲットを規定するのは、ある一過性のキャンペーンやセールスに刺さる相手を見つけ出す作業とは異なる。時間や場所、商材が変われども、そのブランドに呼応する価値観を抱き続ける誰かを探すことが肝要である。

ブランド提供価値(何を)

顧客がそのブランドの商品やサービスを購入・利用することによって得られる価値は大きく分けて2種類ある。

ひとつ目は、商品・サービスが提供する物理・機能面の効用を意味する機能的価値だ。例えば車であれば「燃費のよさ(燃費性能)」、家電であれば「壊れにくさ(耐久年数)」、スーパーであれば「品揃えの良さ(商品種類数)」など、目に見えて証明できる価値を指す。先ほどのスターバックスの例であれば、機能的価値は「自分自身にとっての『美味しいコーヒー』」である。甘味・苦味などのコーヒーの味は一定の客観性を持って証明できるが、「自分自身にとって」という言葉の中に、美味しさはひとりひとり感じ方が異なるというブランドの思想が含まれている。その思想はスターバックスの「自分だけのコーヒーをカスタマイズできる(カスタマイズ性の高さ)」という機能的価値として具現化され、スターバックスの競争優位につながっている。

ふたつ目は、商品・サービスが提供する感覚・気分的な効用を意味する情緒的価値である。スターバックスのコーヒーを購入する理由は、コーヒーの美味しさだけではない。スターバックスが提供する「快適でくつろげる」空間もまた顧客が繰り返し足を運ぶ大きな要因となっている。同じく、車を購入する理由は機能性だけではなく、その車を運転している時に感じる高揚感も重要な要素であることは否定できない。化粧品もまた、気分を高めてくれる小さな紙袋や美しいパッケージ、店舗で購入する際の特別なサービスが価値の一部となっている。情緒価値は目に見えず指標しづらいが、機能的価値と同等かそれ以上にブランドに対する愛着に大きく影響している。

この2種類の提供価値を支えているものが、商品・サービスが持つ具体的な事実・特徴である。規定される提供価値はすべて何らかの事実・特徴に裏付けられている必要がある。ここに記載される事実・特徴は、競合には真似できないブランド独自の強みであること、また機能的価値・情緒的価値の実現に直結するものであることが望ましい。

ブランド・パーソナリティとは、ブランドが醸し出す雰囲気や世界観のことであり、「Aというブランドは〇〇な雰囲気がある」といったフレーズで表現されるものである。ブランド・パーソナリティは直接的な言葉で伝えるものではなく、顧客がブランドと接触した体験の中から自然と感じ取ってもらうものである。そのためには、各顧客接点におけるデザイン要素に統一感を持たせることが重要である。例えば、そのブランドの広告を見た時の印象と、実際に店舗に足を運んだ際に受ける印象は同じものでなければならない。一貫したブランド・パーソナリティは、顧客の潜在意識の中にそのブランドらしさを印象付ける上で大きな役割を果たすのである。

最後に規定されるブランドエッセンスは、これまでに挙げてきた各提供価値要素の全てを凝縮した、いわばブランドの約束そのものを一言で表現するものだ。スターバックスの例では、ここで初めて「第三の場所=Third Place」という言葉が出現する。ここで規定される言葉は今後すべてのブランディング活動の憲法として君臨するものであり、一貫したブランド戦略を実現する要となるものである。

ブランド提供価値規定は、まさにブランドにとっての「自分探し」のようなプロセスである。このブランドは誰のために何ができるのだろうかと模索する過程そのものが、ブランドの核を明確化し新しい姿へと生まれ変わる第一歩を踏み出すエネルギーとなる。皆様の企業で実際にブランド提供価値規定を進めるにあたり、注意すべき点をいくつか箇条書きでまとめたので、合わせてご参照いただきたい。

1) 社内を巻き込むことで「合意形成」を図る

ブランド提供価値はブランドを支える全社員が腹落ちできるものであることが重要である。一部のメンバーだけで規定したものを後から社員に伝達したとしても、本当にそうなのか?他に何かないのか?と疑問を持ったままでは、なかなか社員にとって自分ごと化しづらくなってしまう。弊社で実施しているプロジェクトでは、多くの場合社内のキーパーソンへのインタビューに加え、社員向け定量調査、ワークショップなどを実施することにより、社内を巻き込みながらブランド提供価値を規定することが多い。社内の声を網羅的に取り入れる合意形成型で進めることで、ブランド提供価値が机上の空論に陥らず、全社員の拠り所として定着させることができるのである。

2) 「事実・特徴」と「価値」を混同しないよう注意する

ブランド提供価値規定をおこなううえでよく混同されやすいのが「事実・特徴」と「価値」である。「事実・特徴」は商品・サービスが持つ強みや属性(自社視点)を指しており、「価値」は顧客が商品・サービスを利用することによって得られるメリット(顧客視点)を指している。植物物語というヘアケア・ボディケアブランドを例に挙げると、事実・特徴は「100%植物由来の原料」であり、それだけでは顧客に対するメリットにはならない。この事実・特徴を価値として表現するならば、「肌に付けたときの安全性(機能的価値)」、「長く使っていける安心感(情緒的価値)」など顧客にとっての意味を表す言葉でなければならない。「価値」を検討する際には、必ず「これは顧客にとってのメリットになっているだろうか?」を問い直しながら進めると良いだろう。

3) 「現在視点」と「未来視点」の両方を加味する

もうひとつ、ブランド提供価値規定をおこなううえで陥りやすい落とし穴が「現在視点」のみで規定をおこなってしまうというものである。現在保有している事実・特徴を洗い出し、それらを顧客にとっての価値へと昇華させただけのブランド提供価値では、あくまでもブランドの「今」を可視化しただけになってしまう(このようにフレームワークの下から上へと検討していくこの進め方を“現在視点からのラダーアップ”と言う)。一方、新しいブランドの姿へと変革をしていくためには、ブランドターゲットがどのような人々で何を期待しているのかを明らかにしたうえで、その人々にどのような価値を提供していくべきなのかを検討し、そのためには「将来どのような事実・特徴が必要になるだろうか(M&AR&Dによって開発可能な未来の事実特徴)」を明確化する必要がある(このようにフレームワークの上から下へと検討していく進め方を未来視点からのラダーダウンと言う)。ブランド提供価値を規定する際には、「現在視点」だけでなく「未来視点」を加味して進める必要があるだろう。

1.ブランドを社内外に発信する(ブランド・コミュニケーション)

図5

例えばスマートフォンを買い替えようと思った時、どのようなブランドが頭に浮かぶだろうか。すぐに思い付くブランドもあれば、インターネットで検索してはじめて「そういえばこのようなブランドもあったな」と思い出すものもあるかもしれない。あるいは、名前を見てもどのようなブランドなのか全くイメージが浮かばないものあるだろう。日用品であっても同じである。スーパーマーケットで醤油やマヨネーズを買い足そうと思った時、「醤油と言えばこれ」「マヨネーズと言えばこれ」といつも決まった商品に手が伸びるということはないだろうか。このように、特定の商品・サービスカテゴリーの中で、各ブランドが顧客の頭の中で占めている割合のことをブランドのマインド・シェアと言う。

ブランド・コミュニケーションの目的は、まさにこのマインド・シェアにおいて競合他社との奪い合いをおこなうことである。

まずは顧客が特定の商品・サービスを購入したいと思った際に、自社ブランドがしっかりと思い浮かぶようにすることで、選択肢のひとつとして潜り込む必要がある(ブランド認知の向上=円の大きさ)。

また何とか選択肢に挙がることができたとしても、他社に比べてどこが優れているのかが顧客の中ではっきりしなければ、結局は競争に敗れ、顧客に選ばれなくなってしまう。そのため、競合他社に対する自社ブランドの優位性についても、合わせて連想してもらわなければならない(ブランド優位性の理解=赤い矢印)。

59074688394_06

それではいかにしてブランド・コミュニケーションを通じて自社ブランドのマインド・シェアを高めていくことができるのか、検討すべき項目と考慮すべき視点について、いくつかご紹介していきたい。

全ての顧客接点で一貫した活動をおこなう

我々は広告を数回見たり聞いたりしたくらいでは、そのブランドを記憶したり、ましてやそのブランドの提供価値を理解することなどできない。広告を見て印象に残っていた商品について、友人からも利用して良かったという話を聞き、インターネットで検索して実際に店舗に足を運んでみたところ、店舗の雰囲気が良く販売員も親切に説明してくれたので購入してみることにした…と言った一連のプロセスを経て、ようやくそのブランドが脳内にインプリンティングされる。このように、実際には広告だけを見て購入に至るということは稀で、ほとんどの場合は複数の顧客接点(顧客がブランドと接触する場)を経由してから購入することが多い。そのため、ブランド・コミュニケーション戦略を検討する際には、顧客がブランドと出会ってから購入に至るまでに接触しうる全ての顧客接点を洗い出し、それぞれの特性を活かしてどのような情報や体験を提供するのか、その全体像を設計することが重要である。

また各顧客接点で提供される情報や体験には一貫性のあるストーリーがなければならない。例えばロクシタンという化粧品ブランドの場合、「温暖で自然豊かな南仏プロヴァンスのライフスタイルを提案すること」がブランド提供価値の中心に据えているため、広告・Web・商品デザイン・店舗空間など全ての顧客接点において、南仏プロヴァンスの壮大な大地や降り注ぐ太陽、そして各化粧品シリーズに含まれる南仏の自然素材が感じられるようデザインされている。また一部の店舗では、優良顧客向けにロクシタンの化粧品を使った無料エステを提供するなど、購入後のアフターサービスにおいてもロクシタンの世界観を堪能できる仕組みを作り上げている(※2)。

このように複数の顧客接点において一貫したブランドの提供価値に触れ続けることによって、少しずつ顧客の脳内におけるブランドのマインド・シェアを高め、長期的に強固なブランドイメージを確立させていくことができるのである。

59074688394_07

社員にもブランドを深く理解してもらう

時間とお金をかけて美しいロゴマークや的確なブランドスローガンを作成したものの、ふたを開けてみると社員は誰もその意味を十分に理解しておらず、営業もそれをうまく取引先に説明することができない…という事態がしばしば発生する。これではいかに顧客接点を通して一貫したブランド・コミュニケーションを実施しようとしても、必ずどこかでつじつまが合わなくなってしまう。日々の業務の中でブランドに命を吹き込んでいくのは社員であり、ブランドが提供する価値を最も深く理解し、ブランドが目指している未来に共感していなければならないのは、実は社員である。そのため、ブランド・コミュニケーションは顧客に対してだけでなく、社員に対しても同等かそれ以上のエネルギーを以って実施されなければならない。こうしたブランド提供価値を社内に浸透させていくための一連の活動をインターナルブランディングと言う。

インターナルブランディングには数多くの手法があり、うまく効果を発揮できれば社員の意識や行動を根本から変える力があることから、近年は社内風土を変革するためのツールとして活用されることも多い。社員がブランドに深く共感するということは、自らの意思でブランドが目指す未来に向けて動きだせるということである。グローバル化やM&Aによって組織が大きく複雑になり、社員の帰属意識や当事者意識が希薄化する中、共通の志を持ちながらもひとりひとりが個性豊かに活動する力を与えていくことこそが、インターナルブランディングの目的である。

また「社外発信(アウター)」と「社内浸透(インナー)」の関係性についても触れておきたい。

ブランド・コミュニケーション戦略を設計する際、アウター向けコミュニケーションは広報部が、インナー向けコミュニケーションは人事部が担当するなど、推進主体が異なるケースを目にすることも多い。しかし、それでは互いがどのような活動をしているのかを知らぬままバラバラに進んでいくことになってしまう。しかし実際には、「社外発信(アウター)」と「社内浸透(インナー)」は表裏一体の関係にある。社員のブランド理解が深まれば顧客が受け取るブランド・メッセージにも説得力が増し、顧客のブランドに対する評価が上がれば社員もよりブランドに対して誇りを感じるようになる。このように、社員と顧客のブランド理解が互いに影響を及ぼし合う現象のことをブランドのミラー効果と言う。このミラー効果を最大限に生かすためには、ブランド・コミュニケーション戦略は社内外をバラバラに検討するのではなく、常に両方を俯瞰しながら全体像の中で設計していくことが望ましい。

59074688394_08

ブランド・コミュニケーション施策

ここまでブランド・コミュニケーションの考え方について解説してきたが、具体的な施策にはどのようなものがあるのかについても触れておこう。ここでご紹介する施策はあくまでも一例であり、実際には無限の可能性がある。以下の施策例を参考にしつつ、クリエイティビティを存分に発揮していただきたい。また前段の繰り返しにはなるが、これらの施策はそれぞれ独立したものとしておこなうのではなく、一貫した戦略ストーリーのもと、互いに連動し合う形で設計されることが望ましい。

アウター向け施策(顧客、取引先、株主、求職者など)

画像9 1)ブランド広告

特定の商品やサービスの販促を目的とせず、ブランドの世界観や提供価値に関する理解を深めてもらうための広告。企業広告が該当することも多く、再規定したブランドを初めてお披露目する際に大々的に展開し、その後は定期的に一定の投下を図り認知・理解を維持することが望まれる。

画像10 2)広報/PR/IR活動

新たな投資や提携、新商品の発表や諸制度の改革など、伝達したいブランド提供価値にふさわしいニュースを、戦略的にスケジュールを練って発表する。特にブランド広告と連動して関連ニュースが発表されると、発信しているブランド・メッセージの信ぴょう性が増し、浸透しやすくなる。

画像11 3)ブランドサイト

ブランド広告やPR活動を通じて興味を集めた後、より詳細な情報を取得できる場としてブランドのWebサイトを立ち上げておくことが望ましい。ブランド広告やPR活動と比べ、ブランド提供価値が何であるのかをより直接的・体系的に表現できると共に、広告とPR活動の連携を強化する働きもある。

画像12 4)展示会/イベント

特にBtoB企業にとって、展示会やイベントは法人顧客に対しブランドを理解してもらう絶好の機会である。またBtoCの場合でも、顧客向けイベントの開催を通じてブランドの世界観や提供価値を肌で感じられる機会を設けることで、理解や愛着を深めてもらうことができる。

画像13 5)旗艦店

ブランドの世界観や提供価値を表現した象徴的な店舗を設置することで、より多くの人に体験を通じてブランドを知ってもらう場を提供する。店内では、通常の商品・サービス提供に加え、ブランドをより理解してもらうための展示や仕掛けが導入されることが多い。

インナー向けコミュニケーション施策(社員、グループ企業など)

画像14 1)トップキャラバン

ブランディングをおこなう背景と重要性、またブランド提供価値に込められた意味について、社長を含むトップマネジメント層が各地に出向いて社員に直接説明をする活動。特に新ブランド立ち上げ初期に実施されることが多く、新ブランドに対する会社の本気度と、社員参加の重要度を感じてもらうことを目的としている。

画像15 2)ブランドブック

ブランディングをおこなう意義、ブランド提供価値の紹介・解説、社長からのメッセージやブランドを体現する代表的な社内事例の紹介などがまとめられた小冊子。トップキャラバン同様、新ブランド立ち上げと同時に配布され、その後も日々の事業活動の拠り所として社員ひとりひとりに保管してもらう。

画像16 3)社内ポスター

ブランド提供価値が視覚的に分かりやすく表現されているデザイン性の高いポスター。ブランド立ち上げ時期には社員の興味を引くことができると同時に、日常的にオフィス内で目につくところに掲示することで自然な形で内容の記憶・理解を促すことができる。

画像17 4)ブランド研修

新ブランド立ち上げ時期には全社的なブランド研修をおこない、その後は新人研修や中堅社員研修の中にブランドに関するコンテンツを取り入れることで定期的にブランドについて考える機会を設ける。研修では一方的な情報提供でなく、社員との対話を通じてブランドの自分ごと化を促進することが重要となる。

画像18 5)表彰・コンテスト

より社員の参画意識を高めるための施策として、ブランド提供価値を体現した事業活動を実現した社員の表彰や、ブランドに体現した新規アイディアを募集するコンテストを実施する企業も多い。賞賛を通じて、社員に求められている行動を明確化することで、具体的なアクションを促す効果が期待される。

ブランド・コミュニケーションは、顧客の頭の中で自社ブランドが確固たるポジションを築き、数ある競合商品の中で選ばれ続けるブランドであるために長い時間をかけて実施していく活動である。それは広告やPR活動に留まらず、あらゆる顧客接点を通じて伝えられるブランドからのメッセージであり、全社が一丸となってそのメッセージの発信に努めなければならない。こうした活動を通じて得られるものは、顧客の「期待」である。このブランドを選べばいいことがあるのではないか。そう期待して商品を手に取り、サービスを試してみようと思ってもらえる。しかしブランドを築く活動はここで終わりではない。この期待に応えていかなければならない。ブランド・コミュニケーションを通じて顧客に約束した価値をしっかりと提供し、顧客の期待に応え続けるためには何が求められるのか?

この問いに対する答えは、次章以降で紹介していきたい。

次章以降の記事をご覧になる方は、こちらのページから閲覧いただけます。
https://www.hakuhodo-consulting.co.jp/blog/branding/branding_20211125

※1:「スターバックス成功物語」ハワード・シュルツ他、日経BP社(1998)
※2:本レポート作成者である博報堂コンサルティングが、ブランドの公開情報から独自に予測・分析しています。(参考元:ロクシタン公式サイト、2019年6月18日)

この記事の著者

博報堂コンサルティング

BrandingGrowth-ブランドをテコとした事業成長の実現

競合ひしめく市場で、いかに持続的に利益を獲得し、事業の成長を実現するか。
その唯一の方法とは、顧客や生活者の「頭の中での競争」に打ち勝つことです。
そのためには、生活者と共有可能なブランドのビジョンを描き、ビジネスモデルや人・組織等の現実のアクションでブレークスルーを実現しなければいけません。
更には、生活者から選ばれる新たな判断軸を生み出し、そこに絶対的な差別性を築き上げることで、閉塞的な市場環境の突破が可能となります。

博報堂コンサルティングのコーポレートサイトでは、アフターコロナにおける市場・業界フォーキャストや、ブランディング、ブランドマネジメントなどをはじめ事業変革とDXを実現しトップラインを向上するためのノウハウを、レポート、サービス、事例としてコラム掲載・メルマガ配信し、またセミナーや講義のご案内について発信しています。

BrandingGrowth-ブランドをテコとした事業成長の...

Share

一覧に戻る