運用型広告クリエイティブ大量制作の成功・失敗の分岐点とは?

2022.04.28

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運用型広告で成果を出すためには、ターゲット、メッセージ、媒体、配信メニューに合わせてクリエイティブを作り分け、制作・配信しながら出稿を調整することが必要です。調整できるが故に、クリエイティブのパターン数が大量になるケースが多いですが、ただ闇雲に大量に作れば良いのでしょうか?運用型広告のクリエイティブを制作する際に考慮すべきポイントを、アイレップ クリエイティブUnit責任者 湯浅直人に聞きました。

なぜクリエイティブパターンは多くなるのか?

――本題に入る前にまず、運用型広告のクリエイティブの定義を教えてください。

湯浅:
運用型広告の配信に使用されるクリエイティブには、主に「テキスト」「バナー(静止画)」「動画」の3パターンがあり、細かく見ていけばそれぞれに運用の特色やコツが異なりますが、本稿ではこの3つを合わせて「運用型広告のクリエイティブ」と総称することにします。

――では最初の質問です。そもそも、運用型広告のクリエイティブは、なぜ複数作らなくてはいけないのでしょうか?

湯浅:
その疑問は、運用型広告の特長を考えればすぐに解消できると思います。運用型広告は、リアルタイムで各種数値を見ながら、出稿量を最適な状態にチューニングするのが基本であり、それこそが予約型広告とは異なる最大の特長でもあります。複数のクリエイティブの中から最適なものを選び抜いて掲載することができるのが、この広告枠の最大のメリットです。そのメリットを最大限に生かすためには、渾身のクリエイティブをひとつだけ作って、それで勝負をかけるという施策はあり得ません。複数のパターンのクリエイティブが絶対に必要なのです。

――なるほど。では、どのくらいのパターンを作る必要があるのでしょうか?

湯浅:
それは、クライアント企業からも頻繁にいただく質問です。「クリエイティブは何パターン作ればいいのか?」「この商材だったらどれぐらいの種類を作るのが一般的か?」と最初に質問されるクライアント企業はとても多いです。

しかし、結論から言うと、明確に答えることはできません。なぜなら、その最適解は条件により異なるからです。運用型広告のクリエイティブを制作する際にはさまざまな変数を考慮する必要があり、その変数の数によって、最終的に作るべきパターン数は大きく変わります。

変数には、「広告予算」「メディア」「ターゲティング」などがあります。運用型広告のクリエイティブの場合、最適なパターン数は、こうした変数を考慮して決めるということを、前提として理解する必要があります。

――でもやっぱり、ざっくりでいいので最初に目安の数字が欲しいと思うクライアント企業は多いと思うのですが。

湯浅:
確かに、それはそうですね。あくまで私見なのですが、ひとつ目安になりそうだと思うのは、商材によって異なる「獲得単価」「ターゲットの母数」「広告接触頻度」です。

例えば、健康食品や化粧品のような単品通販系の商材や、ゲームアプリなどエンタメ系の商材に関しては、そもそも一般大衆向けの商材のためターゲット母数が多く、目標の獲得単価も低く、接触頻度が高く、結果的にクリエイティブの劣化スピードが非常に早く、それに連動して大量のパターンが必要になることが想定されます。一方で、高額なBtoB商材のように、ターゲット母数も消費財ほど多くなく、接触頻度も高くなく、購買プロセスの中でサイト接触による情報収集もおこなわれ、結果的にクリエイティブの劣化スピードが早くなりづらいものは、大量のクリエイティブ展開が必要にならないケースが多いです。

――具体的な数字ではどのくらいになるのでしょうか?

湯浅:
前者の場合は、例えばクリエイティブ配信が伴う広告費の月間予算3000万円で運用してみることになった場合、クリエイティブを100パターン以上制作・配信することはざらにあります。目標に設定したCPAなどでもちろん上下しますが、おおよそそれくらいのボリュームと捉えていただいて良いかと思います。後者の場合は、最低限分類したい訴求ポイントの数ごとのバリエーションを作ればいいので、多くても30パターンほどではないでしょうか。

――商材によってかなり差があるのですね。

湯浅:
そうなんです。運用型広告クリエイティブのパターン数は、商材特性やユーザー特性によって、非常に大きな差が出るものだということを、ぜひご理解いただきたいと思います。
これらの背景を理解せずにただ闇雲に大量制作した場合は、配信しきれない・クリエイティブの勝ち負けを判断できない・誤った考察とネクストアクションにつながる、などの失敗に陥ります。

パターン分けの基準は「配信変数」と「表現変数」

――運用型広告のクリエイティブのパターン分けの基準は商材ごとに異なる、ということを、もう少し詳しく説明してください。

湯浅:
先ほど、運用型広告のクリエイティブの最適なパターン数は、変数を考慮して決める、と言いました。ではその変数とは何かとなりますが、大きく分けて「配信の変数」「表現の変数」の2種類です。

「配信の変数」については先ほども触れましたが、ざっと挙げていくと、「商品特性」「獲得単価」「配信するメディアの数」「ターゲティングの数」あたりがまず出てきます。パターン数はこの変数を掛け合わせた数となるため、商材によって最適値が大きく変わってくるのです。なお、ここでいうターゲティングとはセグメントのことであり、広告に対する興味関心や行動、またターゲットのデモグラフィック属性などを指します。

「表現の変数」は、訴求パターン、キービジュアル、デザイントンマナ、サイズ/フォーマットなどが挙げられます。これらそれぞれの変数が複数パターンあるわけなので、組み合わせるとクリエイティブの表現パターン数は多岐にわたります。

最適なクリエイティブのパターン数を決めるのと並行して、あらかじめ設定したターゲットごとに広告グループ/広告セットを作り、そこに対して予算をいくら使うか配信設計をおこないます。この広告グループ/広告セットごとに複数のクリエイティブを回して、その中で勝ちクリエイティブを判断していくわけです。

――このように非常に複雑な業務を、クライアント企業だけで実施するのは非常に大変そうです。

湯浅:
大変というか、おそらくは無理だと思います。実際、この作業は、基本的には広告会社の運用担当者がおこなうもので、クライアント企業の担当者が直接運用することは、ほとんどありません。クリエイティブ制作をインハウス化しているクライアント企業でも、運用だけは広告会社に任せるケースは多くみられます。

運用型広告のクリエイティブ数を決定するには、ここまでお話ししてきたように変数を考慮する必要がありますが、その前に予算を確定させる必要があります。それを基に、広告成果を最大化するためにどのメディアを使えばいいのか、どのセグメントに対して配信すべきかを設計し、クリエイティブを何種類用意すべきかを決定していきます。

これらの内容は専門的ですし、広告運用のテクニカルな部分に関わってくるので、基本的には広告会社の仕事となります。ただ、決定のプロセスを知っておくことは、企業の担当者にとっても決して無駄なことではないはずです。

(図1:運用型広告クリエイティブ大量制作の成功・失敗の分岐点)

機械学習を想定した適量の見極めがカギとなる

――無駄にたくさん作るのは問題外ですが、やはり運用型広告のクリエイティブは、基本的にはたくさん作った方がいいということなんでしょうか?

湯浅:
確かに冒頭で、運用型広告のメリットとして「リアルタイムの数値を基に配信をチューニングできること」を挙げました。チューニングするためにはある程度のパターンのクリエイティブが必要でもあるわけですから、そう考えるのは自然ですし、あながち間違いでもありません。

ただし、この考え方にはリスクもあります。というのも、プラットフォームが配信する運用型広告は、機械学習によって配信を最適化することが一般的になっているからです。

機械学習による最適化では、各クリエイティブがどれくらいクリックされたか、CVにつながったかなどのデータを使います。クリエイティブのパターン数が多ければ多いほど、クリック数やCV数は分散するので、機械学習がかかりづらくなる、もしくは少ない数値で機械学習が間違った方向に学習してしまい、正しい判断ができなくなる可能性が高くなります。

――とにかくたくさん作ればOKというものでもないのですね。

湯浅:
ここが非常に難しいところで、たくさん作って、都合の悪いものを順次配信停止にしていくという大枠の考え方自体は間違いではないのですが、大事なのは、その塩梅です。運用型広告のクリエイティブを複数パターン制作する際には、この”適量”の見極めが、非常に大事なポイントになってくるのです。

適量を見極められるかが広告会社の能力

――その”適量”を見極めるためのポイントはどこにあるのでしょうか?

湯浅:
正直なところ、”適量”の判断は非常に難しいのですが、ベースとなるのは過去の運用実績です。新たな案件の運用プランを作る際には、過去の運用実績をもとに予測値を算出します。商材の種類、パターン分け、配信先メディア、単価、CV数などから類似の案件を参照しながら、プランニングした上で、予算から逆算してクリエイティブ数を算出するという手順を踏みます。

――過去の実績をしっかりデータとして持っていることが大事なわけですね。

湯浅:
そうです。例えば専業ではないがなんとなく運用できる人がいるなら、社内の人間で完結させてしまおうと考える会社もありますが、やはりこうした作業は中途半端な経験則でおこなうのではなく、きちんと過去のデータや運用実績を踏まえておこなうからこそ、最適解を下すことができると私は思います。

過去の運用データを踏まえて、多くの変数を考慮し、どう運用すれば成果を最大化することができるのか。その視点で考えることが、”適量”を見極めるためには必要不可欠です。このように、複雑で多くの変数をクリエイティブ担当者の独断または運用担当者の独断で決定せず、制作できるパターン数と配信と成果判断を実行できるパターン数の最適解を過去実績から見つけられるかどうかが、大量制作を成功に導くための分岐点だと言えます。

それを実行できるのは、そうした経験が豊富な人材と、大量のデータを保有し、適切な分析をおこなうことができる広告会社に限られます。言うなれば、ここでどういう判断を下すかが、広告会社としての腕の見せ所でもあるわけです。

 

クリエイティブ数に囚われず、最適解を導き出せる体制

――運用型広告のプランニング・制作・配信をおこなう広告会社を選定するにあたり、他にポイントになる点はありますか?

湯浅:
詳しくは次回以降でお話ししますが、運用型広告の運用には、クリエイティブ担当者と運用担当者の距離感が密であることがとても重要です。

各担当者が持つ多くの情報を関係者全員で共有するためには、適切なコミュニケーションとフィードバックを頻繁におこなう必要があります。それによって、運用型広告のクリエイティブを、最適なパターン数で制作/運用することができるのです。

アイレップでは、クライアント企業ごとにチームを作り、営業担当者、運用担当者、クリエイティブ担当者が所属しています。クリエイティブ担当者と運用担当者は、日々、「この配信セグメントなら適正本数は何本か」「どのタイミングで何本のクリエイティブを投入するべきか」といった議論を交わしています。だからこそ、クライアント企業が抱えている課題と、その課題に対して使える広告予算に対して、あらゆる最適解を導き出すことができます。そこが、アイレップの強みのひとつです。

我々クリエイティブUnitでは、他の多くの制作会社や広告会社と異なり、クリエイティブ制作数や、制作売上を目標として持っていません。あくまで目標は、クライアント企業の広告成果を最大化し、かつそれを継続して実行することをファーストプライオリティとして置いています。クリエイティブの制作本数を意味なく増やそうというモチベーションのない状態で、クリエイティブ担当者と運用担当者が協力し、最適解を追求することフォーカスできるのは、我々の大きな強みだと考えています。

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この記事の著者

湯浅 直人

2013年アイレップ入社。デザイナー/ディレクターを経て、2016年よりマネージャーに就任。プランニング・施策設計・デザイン・効果検証など幅広い領域を守備範囲とする。さまざまな商材のクライアント案件において、LP/バナー等クリエイティブを起点とした成果改善を経験。2018年度マネージャーオブザイヤー受賞。2022年よりクリエイティブ部署責任者。

2013年アイレップ入社。デザイナー/ディレクターを経て、2...

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