ごっこ倶楽部のタテガタ動画レシピ。vol.2 〜生活者はどんな縦型ドラマがお好き?〜

2024.03.22

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TikTokにはじまり、YouTube 、Instagramと縦型動画の勢いが止まらない。ショートドラマ投稿をする人気アカウントとして、TikTokで月間再生数2億回を突破する「ごっこ俱楽部」の統括プロデューサー兼脚本家の志村優氏に、ごっこ倶楽部のドラマの作り方と、その裏付けとなるTikTokユーザーの生態を基にした仮説検証について、当社パートナーである株式会社OASIZの江藤優氏も交え赤裸々に語っていただきます。

注記:本記事ではTikTokやYouTubeショートなどの短尺動画、Instagramのリール機能を「縦型動画」という表記で統一しています。

今回のクリエイター

志村 優  氏
美容師、エンジニアを経て、2022年より株式会社GOKKOの統括プロデューサー兼脚本家に従事。脚本から撮影、編集まで200本以上のドラマ制作に携わり、TikTok Awards Japan 2022受賞に貢献。日本テレビと開設し、プロデューサー兼脚本家を務めるショートドラマ『毎日はにかむ僕たちは。』は、平均再生数340万回を超える。2,000万回再生の動画の脚本を担当するなどクリエイターとして実績を積むと同時に、経営面では資金調達や組織形成フェーズで活躍。 

江藤 優 氏
2019年よりBytedance株式会社のインターンとして、クリエイターパートナーシップ部門に従事。100以上のアカウントを担当した後に独立し、現在は200万フォロワーを有するクリエイターとともに株式会社OASIZを創業。国内外の膨大なリサーチ結果に基づいた制作のもと、企業の継続的なバズと質の高いエンゲージを提供する同社の代表取締役を務める。

「ごっこ倶楽部」志村さんは何者!? 

志村:ごっこ倶楽部のショートドラマクリエイターとして2年半ほど活動しています。ごっこ倶楽部は全てインハウスで活動しており、役者を正社員として雇用している点や編集、撮影、脚本、数値分析まで全て社内でおこなう体制をとっている点が特徴です。クリエイティブを作るところから検証まで全て一気通貫でできているのが、他のクリエイターと全く違うところ。2022年には、TikTok Awards Japan 2022で「Shortfilm Creator of the Year」に選出されました。いま国内で一番見られていて、認知度があるショートドラマクリエイターチームだと自負しています。

江藤:ごっこ倶楽部さんのことは、登場時からずっと注目していて。案件の動画で100万回再生なんて、当時見たことありませんでした。志村さんとは一緒にお仕事もさせていただいているんですが、とにかく分析力やPDCAを回す能力が高い。PDはできてもCAができていないクリエイターが多い中で、ごっこ倶楽部さんは会社としてもクリエイター単位でも実行できているのが本当にすごいと思います。多分日本で一番売り上げを上げているアカウントだと思うので、今日のお話は本当に楽しみです。というか、これ有料記事じゃなくて大丈夫(笑)?

中国で流行っていたショートドラマを、日本へ

志村:元々ショートドラマって中国ですごく流行っていたんです。それを当社代表の多田 智が、日本人向けにローカライズしたら刺さるんじゃないかと試したのがごっこ倶楽部の始まり。思惑どおり、アカウントを立ち上げて1ヶ月経った時点でフォロワーが15万人を超えました。この時点でニーズはあるという確証を得ました。

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江藤:1ヶ月で15万人を越えるって、とてつもない話ですよね。

志村:ごっこ倶楽部がうまくいった要素のひとつが、自前で役者をいっぱい抱えていたこと。もうひとつが、ごっこ俱楽部立ち上げ当初からカメラマンを担当してくれていた廣田 純平が一眼のシネマカメラを持っており、さらにそれを扱う技術が卓越していたことが挙げられます。いわゆるUGC(User Generated Content)しか上がってなかったTikTokに、PGC(Professional Generated Content)が参入してくるみたいなところをうまく演出できたのは、かなり大きかったと思います。

ただ、資金の面では苦労もありました。元々ごっこ倶楽部は、内部の人間が自腹でお金を出してやっていました。ユーザーに刺さるものをとにかく出すという目的で、最初の3ヶ月は持ち出しでやっていたんですが、いよいよ資金が底を尽きた。そのタイミングで、いま多田と一緒に共同代表をしている田中 聡と僕が参画して、ちゃんとした会社組織にすることでなんとか乗り切りました。あと1ヶ月遅かったら無くなっていたかもしれません。

僕の参画後にW venturesというmixiが持っているファンドのエンタメ部門から投資してもらえたので、ひとまず資金面での不安は無くなりました。この時期がごっこ倶楽部としては底だったかなと思います。

持ち出しでやっていたのは、金銭的なリターンはさして考えていなかったと思います。知名度が上がって有名になるというのが最高のリターンだったんでしょうね。何者でもない自分たちにファンがつき始めて、「自腹切ってでもここで生きていく」みたいな。

脚本未経験の僕がバズれば、みんなバズれるはず。脚本執筆の「超・仕組み化」に取り組む

志村:これまでもバズる動画はありましたが、特に「狙ってバスる」を作っていたわけではなかったので、作った後の反響は検証していませんでした。信頼性の高いデータを取得して、そこから再生数等の目標値を立てるためには、ある程度の本数を投稿しなければいけない。でも、僕が入社した頃は月に8本が限界でした。8本だとTikTokのスピード感の中では戦っていけない。そこで、本数を増やすために手をつけたのが「全員が脚本家になる」ことでした。

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志村氏

僕自身、エンタメを作るバックグラウンドが何もない人間だったんですが、その僕が作った脚本が仮にバズったら、その仮説が証明できたことになる。それで、ごっこ倶楽部に入って2ヶ月目ぐらいに1本目の脚本を書いたんです。これまでバズっているコンテンツの傾向を自分なりに分析して、それを踏まえて視聴者の興味を引くような内容を意識して作成したところ、予想外に大きな反響が生まれ見事に動画がバズったんです。それから、バズの知見を言語化してマニュアルにまとめることで、社内で多くの脚本家を育成することに成功しました。脚本をたくさん書ければそれだけ撮れる動画の数も増えるので、そこから動画投稿のスピードが飛躍的に上がりました。

江藤:やはり発想が天才的だと思います。TikTokのアカウントで、ベンチャーキャピタルから投資をしてもらおうという発想に至ることがまずない。あと、属人的になりやすいTikTokのコンテンツ制作を、ここまで理論的にマニュアル化したというのがすごいですよね。

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左:江藤氏/右:志村氏

「志村優」のタテガタ動画レシピ

レシピ 其の1:バズを止めない秘訣は、視聴者ニーズに合わせた脚本のマニュアル化 

志村:まず、TikTokって誰かのメッセージを感じたいとか、役者の演技を見たいというモチベーションで見ている人って皆無なので、そういう方向性の脚本を作るのはやめました。それよりは思わず手を止めてしまうような動画。手を止めるきっかけは正直なんでも良くて、例えば卵の薄皮だけ残して殻を剥く動画がバズっていたなら、卵の殻を剥くシーンを冒頭に入れてみる。今流行っているもの、バズるものを常に動画内に出すということを徹底しています。ドラマの内容と全く関係ない要素だったとしても、それを差し込むことで違和感が出て引きになるんです。

あとは、「あの役者を使ったから」「ロケーションが良かったから」みたいに、脚本以外でバズる可能性がある要素を全て排除しました。キャストは二人しか出さない。ロケも1ヶ所でしかやらない。低コストで絶対バズるものを作ることができれば再現性が無限です。最初は引き算の発想で脚本を作って、あとからいくらでも乗せていけば良いと思っています。

例えば、以前、男女が朝ご飯にゆで卵を食べる動画を投稿しました。その中で、女性がゆで卵にマヨネーズをかけるシーンがあるんですが、男性が「ゆで卵に卵で作られたマヨネーズをかけるのっておかしくない?」って突っ込むんですね。コンタクトしているのにメガネかけないでしょみたいな理屈で、このトークが冒頭の30秒間に繰り広げられるんですが、これがめちゃくちゃバズった。コメント欄が大喜利みたいになって、「こんな茶々入れてくる男サイテー」などのヘイト投稿で盛り上がりました。こういういろんなツッコミを入れやすい作りにすることは脚本を書き始めた初期の段階から考慮していました。

江藤:これで初期の段階だったら、今はどれだけアップデートされているのか気になります。

志村:このゆで卵の動画は、一幕構成で特に展開がないので、これだけ作っていたら絶対飽きられてしまいます。だから、ジャンル別に適したフォーマットを作って「何話構成がどのジャンルで適しているか」ということを細分化し、各ジャンルに合わせて必ず定量的なフィードバックが得られる形にしています。時期によってこのジャンルが流行るなどの傾向はないですが、時期によって短い動画がバズる、長い動画がバズるという傾向はその時々で発生します。今は短い動画の方がバズっていると分析したら、「一話構成のラブコメをアップしよう」みたいな、動画の尺に合わせてジャンルを決めるということはやりますね。

レシピ 其の2:動画のバズの最重要ポイントは「神コメント」にあった 

志村:これまでの経験から、いわゆる「エモい」に振り切った動画は必ず目標値を下回ることが分かっているので、ごっこ倶楽部内では絶対に作らないようにしています。エモいって、「なんかいいよね」という感覚で終わってしまい、言葉にならない。つまり、言葉にならないからコメントがつかない。嫌な奴がいるとか、嫌な奴が酷い目にあってすっきりしたとか、言語化しやすい読後感を用意してあげないと動画はバズりません。多くのショートドラマアカウントがエモい構成で作っているんですが、僕がディレクターとして入ったら「今すぐやめましょう」っていうぐらい禁じ手だと思ってます。

江藤:確かに、エモい構成ってやりたくなるんですよね。何とも言えない距離感とか、含みを持たせたようなエモいものを映像化することは、クリエイターのこだわりのひとつにもなりえると思うので…。

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志村:含みを持たせるのは良いんですが、言語化できないものはやめた方が良いですね。例えばコメント内で「この人って生きているってこと?」みたいな論争が起こるような含みはめちゃくちゃ良い。いわゆる神コメと言われるものですが、「この脚本からどんな神コメが上がると思う?」というのは、脚本担当者に問いかけています。神コメがつく条件というのは、作品を見たときに読者がどんな気持ちになるかを想定して、その読者が想定するようなものが描写されているか。だから、コメントを予測してクリエイティブを作ることは義務化していますし、かなり意識しています。

例えば、良い奴、悪い奴みたいなのがはっきりしている動画は、神コメにつながりやすいですね。こんな彼女いてほしいなとか、こんな旦那とは絶対離婚するみたいな。

あとは賛否両論系。2,000万回再生されたごっこ倶楽部で最もバズった動画があるんですが、それはある女性が職場に子供を連れてきて先輩や上司から非難されるという内容でした。僕が脚本を書いたときは、母親が擁護されるコメントがいっぱいつくかと思ったんですが、上司が正しいというコメントが結構ついたんですね。これは完全想定外だったんですが、こういういろんな視点からの良い奴・悪い奴を作っておくと、コメント欄が盛り上がり再生数も上振れしやすいと思います。

レシピ 其の3:圧倒的に音が大切。SEで感情を誘導してあげる。

志村:TikTokってひとつの動画の中で音源がずっと紐づいているので、視聴者としては見ているつもりでも実は聴いている軸が多いんです。だから、まずはBGMをユーザーが聴きたい音楽にすることが大切。あとはSE※1ですね。ごっこ倶楽部の動画では、BGMが鳴っていない時でも、基本的にセリフ+何かしらの効果音が鳴り続けている。何かを置いたらポンッとか、頷いたらコクンとか。一動作に必ず音が乗るようにして、耳がずっと飽きないようになっています。

※1:SE…Sound Effect。 効果音。

あと、TikTokって村上春樹を読んでいる人からアンパンマンを見ている世代まで視聴者層が幅広いので、皆さんに描写をわかりやすく伝えるにはSEで教えてあげる必要があります。今この人はショックを受けているんだよとか、今告白しようか悩んでいるんだよ、などのト書き※2部分の表現をSEで伝えるという手法を使っていますね。

※2:ト書き…台本において、セリフ以外の行動や心情、状況などを説明・指示するもの。

江藤:ごっこ倶楽部さんは、音の使い方がめちゃくちゃ上手いですよね。TikTokのユーザー層から逆算分析して最適化をしているところがすごいと思います。

レシピ 其の4:「無思考で見れる」真に生活者が求める動画の制作が鍵

志村:まず認識すべきは、視聴者は何か目的があってTikTokを開いているわけではないということ。人間は無思考状態でなんとなくTikTokを開いて眺めることができるように進化したんです(笑)。だから、何も求めていない人に対して、「これが求めていたものなんだ」と感じてもらえる動画を作ることを大事にしています。

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コンテンツを作成するうえでまず理解しておくべき大前提は、感動的な話には必ずショッキングな要素や違和感を含む場面が存在することです。例えば、手術の瞬間を描いた場面がそれにあたります。病院で「急患です、どいてください!」と叫ぶ声がして、医師たちが走って手術室に向かい、急いで準備をする様子が描かれている動画があったとします。ここまでで大体5、6秒なんですけど、ここでアテンションが奪えると、ほとんどの人が視聴を継続してくれるんです。無思考の人のアテンションを冒頭で奪うことで、その後の感動ストーリーまで見てもらえるモチベーションを作り出すようにしていますね。

あと感動ドラマではあるんですが、スナック感覚で見てもらえるように気をつけています。我々は今だけ視聴者のアテンションを奪えれば良い。そのあとは記憶から消えてしまって構わないんです。映画やドラマみたいに、マンスリーで記憶に残る作品を見たいとTikTokユーザーは思っていないので、この瞬間だけ楽しいもの、重たくないものを作ることが大切です。

チャレンジ企画:新卒社員のタテガタ動画レシピ

「私が縦型動画クリエイターになるとしたら…?」
この企画では、競争率の高い縦型動画クリエイター市場を生き抜いてきたトップクリエイターが「一般人が縦型動画クリエイター市場に参入する場合のコンテンツ戦略」をコンサルティングします。記念すべき第2回は、アイレップの新卒社員である大川美香(仮名)さん。彼女のプロフィールから、彼女だからこそ実現できる縦型動画コンテンツ企画をごっこ俱楽部さんにコンサルティングしてもらいました!

悩める新卒1年目、大川さん(仮名)。
TikTokやYouTubeショートクリエイターとして、大川さんが目指すべき方向性とは…?

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志村:まず、自分の得意なことをコンテンツ化するのは絶対にやめましょう。特技に書いてある料理系やピアノ系コンテンツはやっちゃダメ。  競合が多すぎて結果が出るまでに時間がかかりすぎます。人間、結果が出ないと続かないのでおすすめできません。

自分が他の人より情報を持っていて、かつ競合が少ないところを狙うのが良いと思います。だから、このプロフィールで言うとラランドのファンというのは結構使えるのではないかな。

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江藤:ラランドの熱烈なファンみたいな立ち位置の副音声コンテンツをやるのは可能性があると思いますね。「ラランドが好きすぎる」とか(笑)。

志村:M-1グランプリ最速解説みたいな副音声コンテンツもありますけど、まだ男性しか入ってきていないイメージなので、それを女性目線でやるというのはニーズがあるのではないでしょうか。お笑い関連に詳しい女の子の立ち位置でしっかりとした解説をするとか。

やっぱり考え方としては、敵がいないところに攻めていくというのが勝ち筋です。男性が強くて女性があまりいない場所を上手く探していく、そういう感じじゃないと今のデジタルコンテンツに新しくマーケットインしていくのは難しい。是非、ラランドの熱烈なファンとして旋風を巻き起こしてほしいなと思います(笑)。

大川さんが、目指すべきアカウントの方向性
「ラランド が好きすぎる。」

Point
・人一倍詳しい、かつ 競合の少ないテーマを選ぼう
・女性目線の副音声コンテンツはまだ少ないので狙い目 
・「お笑いに詳しい女の子」の立ち位置でしっかり解説するアカウントを目指す

 

―あえてマイナーな路線を目指して、敵のいないところで発信をする。自分の好きをアピールしつつ、冷静に自分のフィールドを見極めていくことが重要ですね。本日はありがとうございました。

この記事の著者

松尾 良馬

2018年にアイレップにプランナーとして入社。CM制作から大型コンペの統合提案まで幅広くおこなう。2020年から博報堂DYホールディングスにて、AD Plus VENTURE制度のもと、新規事業の共同責任者として事業の立ち上げに従事。事業計画から商品開発まで、幅広い領域を担当する。2023年からは再びアイレップにて、広告プランナー・新サービス開発に携わる。事業の立ち上げ経験とクリエイティブを掛け合わせ、スタートアップ事業や新サービス立ち上げ等のプロモーションを得意とする。

2018年にアイレップにプランナーとして入社。CM制作から大...

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