AIとタロット占い師が融合!?驚きのデジタル・トランスフォーメーション

2023.05.26

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昨年11月に彗星のごとく現れたChatGPT。瞬く間に世間を賑わせ、その活用方法について議論がなされない日はない。最近では、国内外のさまざまな企業や行政で導入されたというニュースを目にすることも増え、今後ますますビジネスシーンにおける活用の幅が広がることは想像に容易い。本記事では、ChatGPTの具体的な導入事例を紹介しながら、ジェネレーティブAIのインテグレーション・アプローチを考察していく。

ジェネレーティブAIが占い師の助手に!

ジェネレーティブAIのなかでも文章作成は、業界業種問わずさまざまな場面で活用できるため、すでに利用している人も多いだろう。私の古い友人もChatGPTを活用して、業務効率化に成功したうちのひとりだ。友人は、Webで活動する副業タロット占い師である。ジェネレーティブAIを研究していた私は、「AIでタロット占いができないものか」と考え、友人が提供する占いサービスをDX化してみた。その結果、彼の占いサービスは、わずか1か月で大きく業務を効率化させることができた。今回はその実体験にもとづき、ChatGPT活用の可能性を見ていきたい。

まずは、元々のWebタロット占いサービスの提供方法から説明する。サービスの流れは「①占いサイトで依頼者から相談内容を受け取る」、「②タロットカードを引く」、「③鑑定結果を文章にまとめて送る」の3つのプロセスに分かれている。そして、一回あたりの占いにかかる所要時間は、概ね45分ほどだという。

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(図1:Web占いサービスの提供方法)

 

上記のサービスに対し、今回ChatGPTを導入したのは「③鑑定結果を文章にまとめて送る」の作業が該当する。占いの結果を文章にまとめた鑑定文を、AIに作成してもらうことにしたのである。鑑定文のすべてをAIで自動作成するとまではいかないが、最小限のチェックと体裁を整える程度の手直しをするだけで、十分な品質を提供することに成功した。

結果として得られたのは、一回あたり約45分から約20分への時間短縮だ。もちろん、今のところ顧客満足度や売上に悪影響は出ていない。品質を落とすことなく、かかる工数を50%以下にできたという事実から、コスト削減効果は絶大と言えよう。

依頼を受けてから鑑定結果を返すまでのリードタイムについても、改善が見られた。これまでは副業ということもあり、どうしても2日程度かかっていたところが、今では数時間~半日で回答できるようになった。即日回答は悩める相談者にとって非常に喜ばれるため、AI導入が品質向上につながったといえるのだ。

更には、占い自体に強烈な付加価値を付けることにも成功した。タロット専門の占い師であれば、当然タロットしか扱えないわけだが、ChatGPTは「占星術」、「姓名判断」といったあらゆる占術の知識を持っているため、組み合わせることができるのだ。例えば「タロットカードと占星術と四柱推命を組み合わせ、復縁について占う」ということも可能になった。ここまでくると、人間ではなかなか提供し難いレベルのサービスといえるだろう。

見えてきたインテグレーション・アプローチの鉄板!

前述のタロット占いに対しておこなったことは、「ビジネスにChatGPTを導入する」という取り組みに他ならない。つまり、今後あらゆる企業で急進するであろうジェネレーティブAIのインテグレーションに役立つナレッジとなるはずだ。そこで、我々のアプローチを整理してみると、以下の3ステップに集約することができた。

<Step1>ビジネスプロセスの再設計
AI導入後の事業や業務のプロセスを描く。

<Step2>プロンプト・エンジニアリング
AIを効果的に利用するために、適切な命令文(プロンプト)を設計する。
※図2参照

<Step3>インパクトとリスクの評価
AIを導入することによるインパクトと、新たに生じるリスクを洗い出し、双方のバランスを見極める。

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(図2:ChatGPTのプロンプト)

 

まずは<Step1>ビジネスプロセスの再設計だが、ここではジェネレーティブAIを導入することで、業務プロセスがどう変わるかを描いていく。ジェネレーティブAIはできることが多いため、広範な領域で適用を検討することが望ましい。また、ジェネレーティブAIは技術進化が非常に早く、何ができるのかを理解しておかないと業務への適用領域を判断しかねる場合もでてくる。このため、技術的知見に明るいプロジェクトメンバーの参画が推奨される

次に<Step2>プロンプト・エンジニアリングでは、ジェネレーティブAIへの命令文(プロンプト)を設計する。ChatGPTが勃興してから急速に研究され始めた分野であり、命令文の書き方で回答が大きく異なるものである。例えば図2は算数の問題を質問したものだが、条件を上手く指定しないと誤った回答をされる場合があることがわかる。

図1

(図3:条件の指定によって変わるChatGPTの回答例)

 

ChatGPTは日進月歩で専門ノウハウが蓄積されているため、効果的に活用できるプロンプト・エンジニアという職種も誕生している。かなり専門性の高い領域となるため、初めは外部の知見を借りてみるのも良いだろう。

最後に<Step3>インパクトとリスクの評価では、ビジネスに対するプラス要素であるインパクトと、マイナス要素となるリスクのバランスを評価する必要がある。ここで言うインパクトとは、リードタイムの短縮やコスト削減、品質向上などを指し、リスクとは顧客満足度の低下やサービスブランドの棄損などを意味する。いくらジェネレーティブAIが優秀であるといえども、結果の生成に一定のリードタイムが発生したり、その結果の精度が不安定であったりすることもある。そのため、この作業は現状のジェネレーティブAIを扱ううえでは特に重要となるのだ。

なお、占いサービスの場合はジェネレーティブAIで生成した鑑定文が、サービスブランドを棄損しないかどうかを慎重に評価する必要があった。占い業界では、占い師個人のブランドがサービスのコアバリューとなるため、ブランド棄損は深刻な問題となるからだ。そのためにおこなった具体的な対策は、既存ブランドにいきなりAIを導入するのではなく、AIで占う別ブランドを立ち上げてPoCをおこない、顧客の反応やリピート率を予め確認するというものであった。

このようなインテグレーション・アプローチによって、ジェネレーティブAIをビジネスに導入できるかを確認できるだけでなく、効果を最大化することもできる。今後ジェネレーティブAIの技術が進化し続けるなかで、各企業は独自のアプローチやノウハウを蓄積していくことが重要と言えるだろう。その結果、既存ビジネスがデジタル・トランスフォーメーションされ、自社ビジネスの競争力を向上させていくことが期待できるからだ。

DXのポイントはバリューを最大化する観点を持つこと

「何を捨ててよいのか、何を得られるのか」

生産性向上を目指して、オペレーションにデジタルやITを導入する際には、「捨てられること」と「得られること」の両面を検討することが必要だ。そして、適用領域が広範になるジェネレーティブAIを使いこなすためには、このポイントの見極めが他のデジタル技術以上に重要となる。
具体的には、以下の4つの観点でバリューを考えると良い。前述した占いサービスのケーススタディをもとに解説していこう。

①新しく生まれるバリュー
ジェネレーティブAIの活用によって得られたプラス要素を指す。占いサービスの場合、「圧倒的な工数削減とリードタイム短縮」や「あらゆる占術を組み合わせた鑑定」が該当する。

②捨ててよいバリュー
人手でおこなうからこそバリューがあると思い込んでいた業務が該当する。実際は、人間でもジェネレーティブAIでも、どちらが作成しても顧客の満足度が変わらないものを指す。私もBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:業務プロセスの再設計)のプロジェクトで経験したことがあるが、何かの作業を「なくす」という選択は、これまで人間が頑張ってきた作業を否定することになりかねない。ただ、いざ捨ててみると意外と影響のないものが多い。

占いサービスでも、相談者に寄り添った文体や丁寧な心遣いによる鑑定文は、人間にしか作成できないと考えていた。しかし、PoCで明らかになったのは、AIが3分で作成した鑑定文も、人間が30分かけて作成した鑑定文も、顧客の反応やリピート率に大差が見られなかったという事実である。やはりビジネスにおける正解は、サービス提供側ではなく、顧客が持っていることを念頭に置かなければならない。

③捨てたバリューの補填
“捨ててよいバリュー”があるといえども、補填できるにこしたことはない。占いサービスの場合は、鑑定文をAI化した代わりに、相談受領時の挨拶や鑑定文送付後のコミュニケーションで気を配り、相談者に寄り添った一言を添えることができた。

④残さないといけなかったバリュー
AI化できる業務の中には、現時点でAIに置き換えてしまうと大切なバリューが損なわれるものもあるため、これは死守しなくてはいけない。人間の心情に寄り添う占いサービスでは、導き出されたひとつの結果について、AIではなく人間が解釈したほうが良いことが分かった。AIに任せると、短絡的かつ極端なものに偏りがちであり、相談者の満足は得られにくかったのである。例えば恋愛相談において、カードが示した「復縁できない」という解釈だと、つき放すだけになってしまう。これを「一年以内の復縁は難しいから、今は自分磨きに専念しよう」、「今は積極的に連絡しない方がいい」など、占い師が独自に解釈を加える必要がある。

これらの観点を総合的に検討することで、ジェネレーティブAIを活用したDXのポイントを押さえることができる。企業や組織がジェネレーティブAIを導入する際には、これらの観点を意識しながらバリューを最大化することと、同時にリスクを回避するような取り組みが求められるだろう。

ジェネレーティブAIの進化は目覚ましく、その応用範囲はますます広がっている。本記事では、占いサービスのケーススタディをもとに、ジェネレーティブAIの導入と活用におけるインテグレーション・アプローチについて解説した。DXを進めるためには、段階的に取り組みながら、バリューを見極めることが重要となる。今後も、ジェネレーティブAIがさらなる進化を遂げることを期待しつつ、その技術動向や活用の可能性を研究し、自社ならではのインテグレーション手法を発展させていく必要があるだろう。

 

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この記事の著者

中原 柊

ベイカレント・コンサルティング、法人向けSaaSスタートアップを経て、2023年にアイレップに参画。メディア/Webサービス/通信/エネルギー業界を中心に、DX企画、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。DX部門において機械学習系スタートアップとの協業やメディアでの情報発信等にも従事。その後、社内最速でマネージャーに昇進。SaaSスタートアップでは、法人向け動画制作クラウドソリューションのカスタマーサクセス部長 兼 DXコンサルティンググループとして、カスタマーサクセスの戦略からオペレーション構築を通し、契約更新率の大幅改善を達成。また、新規プロダクトの立ち上げ等を主導。ChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの社内オペレーション組み込みを力強く推進し、外部セミナー等において情報発信活動にも携わる。主な著書に『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)がある。

ベイカレント・コンサルティング、法人向けSaaSスタートアッ...

伊藤 圭

通信社、外資系製薬会社を経て、2023年4月からアイレップに参画。報道記者として社会、経済などさまざまな分野の取材活動を経験。記事考案から取材先の選定、記事執筆までを一貫して担当した。MR(医薬情報担当者)として医療従事者を対象とした抗がん剤の営業活動にも従事。医師が抱える疑問・課題の抽出から、情報提供、解決までをしてサポートし、医薬品の適正使用や患者生活の質向上に貢献した経験を有す。

通信社、外資系製薬会社を経て、2023年4月からアイレップに...

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