経営戦略とマーケティング、ふたつの視点で読み解く「DX」成功のカギ

2020.11.09

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DX(デジタルトランスフォーメーション)推進企業に対する税制優遇策の検討が報道されたり、新型コロナウイルス流行によって企業活動のデジタルシフトが急務になったりと、2020年に入ってから「DX」という言葉が急速に重要度を増しています。そんななかで、企業のDX支援を目的として協業をスタートさせた、ユナイテッド株式会社と株式会社アイレップ。

本記事では、ユナイテッド株式会社の米田吉宏執行役員、株式会社アイレップの竹内哲也執行役員が、日本企業のDX成功のカギから、協業をスタートさせる真意、そして2社が目指すDXの在り方までたっぷりと語りました。

DXは一過性のトレンドではなく日本企業が継続して取り組むべきもの

――今回はおふたりにDXという大きなテーマでお話をうかがうのですが、まずは、DXというものをどのように捉えているのか、ユナイテッド、アイレップそれぞれの立場からお聞かせください。

 

米田吉宏(以下、米田):
「デジタルによって、事業の継続的な利益成長実現に向けて何らかの変革をもたらすこと」ではないでしょうか。デジタル技術の急速な進展が見込まれる中、デジタルを戦略/オペレーション/組織に組み込み、競争優位性を構築するための取り組みは各社で進むと考えています。

各社で戦略や課題は異なり一律「これをしたらDX」と言えるような施策レベルの定義は難しいと考えています。

 

竹内哲也(以下、竹内):
私の認識もまさにその通りです。例えば、2018年に経済産業省が発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」では、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。取り組むべき領域が本当に広い。

 

米田:
DXという言葉を旗印に、「必ずやり遂げるぞ!」「完了させるぞ!」と期限があるプロジェクト型で推進するようなものではないですね。戦略/オペレーション/組織にデジタルを組み込み、競争優位性を向上し続けることが本質だからです。

コロナ禍は、これまでのオペレーションが強制的に維持できない状況を作り出し、企業が新しいオペレーションを構築するきっかけとなりました。引き続き公衆衛生上でも新しい行動様式は必要ですが、それだけにとどまらず、これを起点に戦略/オペレーション/組織にデジタルを組み込み、競争優位性を向上し続ける取り組みが継続すると良いと思っています。

 

竹内
誰もがわかっていることですが、経営戦略を起点としてDXを支援しているユナイテッド、米田さんが言うと説得力が違いますね。あらゆる領域をデジタル技術で進化させていかなければならないと。

マーケティングコミュニケーションを専門とするアイレップの視点で見ると、DXをもう少しだけ具体化できるかもしれません。おそらくDXとは、「デジタル技術を利用して、顧客視点で事業を再構築する」ことなんです。

BtoC事業では、「顧客データベースの構築」「データにもとづく顧客行動の可視化」「AIを用いたコミュニケーションの最適化」といった施策が盛んに実施されています。ただしこれは、あくまでマーケティングのデジタルシフト。そこに「データにもとづくプロダクト開発」「顧客行動に合わせたサプライチェーンの構築」などが結びついてくるとDXの成功が見えてくる。

BtoB事業の場合はマーケティングのデジタルシフトとDXがより緊密に結びついています。今年、急速に注目度を増した、顧客主体のマーケティング手法である、「インバウンドマーケティング」「BtoBマーケティング」を導入するには、セールスフローの改善や組織改革が必要不可欠です。マーケティング起点で顧客行動を見直すことが事業運営の変革につながるDXの好例といえるのではないでしょうか。

 

DXを成功に導くのは経営判断と実行力の一貫性・スピード

――DXが日本企業にとって必要不可欠なものであることは理解できたのですが、なかなかハードルの高い取り組みのような気もしてしまいます。DXを成功させるためのヒントをいただけないでしょうか。

 

竹内
DXを統合的に推進する組織の存在、そして経営者のコミット。このふたつがDXの成否を分ける要因になってくると思います。

アイレップの場合、マーケティング領域からボトムアップで企業のDXにかかわっていくことになります。このとき、サービス、部署のような小さな単位ではデジタルシフトに柔軟に対応していただける印象があります。しかし、マーケティングだけでなく、セールスや業務フローの改善に話が及ぶと、途端にスピードが鈍ってしまうというのが実感です。組織の壁にぶつかるんですよね。

今、私が注力しているBtoBマーケティングの領域はそれが顕著で、BtoBマーケティングを最適化しようとすると、必ず組織構造や業務フローの改善が必要になります。マーケティングと名前がついていますが、実は経営に紐づくテーマなのです。

DXは組織横断で統合的に取り組むもの。だからこそ、DXに取り組む独立した組織と、それをリードできる経営者の意志が成功のポイントになるというのが、今のところの結論になります。ただ、経営戦略からDXに取り組む米田さんにはまた別の景色が見えているかもしれません。DXをパワフルに推進できる企業の共通点のようなものはありますか。

 

米田
エグゼキューション部分の実行力が高いという点は挙げられると思います。ユナイテッドは経営戦略の視点でDXを支援していく立場。経営陣とのディスカッションを通じて課題の特定や整理、戦略の立案をサポートしていきます。しかし、企業としての実行が伴わないと何の意味もありません。

現在のサービス産業を中心に事業に対する投資判断はリアル・オプション型※1になってきています。将来の成長機会に対して、小さな規模でもいいのでトライし続けて、成功が見えてきたら拡大再生産をしていく。戦略にもとづいてクイックに結果を出し、結果にもとづいて軌道修正していく。こうした機動力の高いオペレーションの重要性は高まっていると思います。

ユナイテッドでは、戦略立案だけでなく、アプリ開発、マーケティング代行、戦略PDCA等、ソリューションのアクティベーションまで支援してきましたが、アイレップとの協業によってBtoBマーケティングに関するソリューションを拡充できたことは、クライアントにとっても非常に価値のある取り組みになると思っています。

※1:リアル・オプション:ある時点の結果を見て、継続か中止かを判断できる柔軟性を持ったプロジェクトや資産のほうが高く評価できるという、事業やプロジェクトの評価手法。

 

竹内
我々のようにマーケティングからアプローチしても、米田さんのように経営からアプローチしても、DXを推進しようとすると企業内に何かしらのハードルがある。このハードルを越えるためには、経営判断と実行力の一貫性、そしてスピードが必要だということかもしれません。

 

ユナイテッド・アイレップの協業により包括的なDX支援が可能に

――今、ユナイテッドとアイレップの協業について少し話が出ましたが、DXの推進についてどのようなサービスを提供していくのでしょうか。

 

竹内
サービスについては、まず米田さんからお話をうかがったほうがいいと思います。読者の中には、ユナイテッドという企業名を聞いて、メルカリへの投資やグループ会社のキラメックス株式会社が提供している「TechAcademy」をイメージされる方が多いかもしれません。具体的にどのような形でDX支援のコンサルティングをしているのでしょうか。

 

米田
まずは、経営層やご担当者様にインタビューをして課題をクリアにし、課題を解決するためのソリューションを検討します。他のコンサルティング会社と異なるのはこのフェーズで開発要件定義にも踏み込んで議論できることです。戦略コンサルティング部分に絞るなら、3カ月間程度のお時間をいただくことが多いと思います。

クライアントが抱えている個別の課題をデジタル技術で解決するには、システムやアプリの開発が必要になることが少なくありません。多くのコンサルティング会社では、システムやアプリの開発は他社任せになるのですが、ユナイテッドには戦略から開発までを一貫して支援できる体制がある。これがユナイテッドがDX支援を掲げられるゆえんですね。

クライアントの要望に応じて開発以降の支援をさせていただくケースもあります。DXを推進するために必要な組織文化の変革支援や戦略PDCAサイクルの強化支援等です。6カ月、1年というスパンで常駐させていただくこともあるでしょうし、手法はニーズによってさまざまです。

本質的には我々と経営陣だけでディスカッションをし、納品型の支援をしても、DXの推進には貢献できないと考えています。先ほども申し上げた通り、実行力や高い戦略PDCAサイクルを実現するには体制と高い組織能力が必要です。可能な限り、クライアントサイドにもご担当者様をアサインしていただき、渾然一体型のチームを組成し、一緒に検討・推進を行う中でケイパビリティを移植し組織能力を高め、結果としてオペレーション/実行力の強化を支援したいと考えています。

 

竹内
アイレップが提供するのは、マーケティングコミュニケーションや施策のPDCA、データ基盤構築の領域ですね。ボトムアップで戦略立案にかかわることもあるでしょうが、専門性を活かすのであれば、明確な経営戦略に裏付けられたデジタルマーケティングの推進という位置づけになると思います。

先ほどDXを成功させるために必要なものとして、DX専門の組織、経営層のコミット、エグゼキューションといった言葉が出てきましたが、ひとつの企業内ですべてに対応するのはとても難しいはずです。ところが、コンサルティング会社やマーケティングエージェンシーに手伝ってもらおうとしても、これらを一貫して支援できる会社が存在していない。実は支援する側にも課題があったのです。

今回のユナイテッドとアイレップの協業は、DXに必要な要素すべてを支援できる体制が整ったことを意味しています。

 

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(図1:ユナイテッド・アイレップ協業によるサービス提供のイメージ)

 

右脳を使ったDX、ミドル層が推進するDX

――最後にユナイテッドとアイレップが目指していくDXの理想形についてもお聞かせください。

 

竹内
アイレップのようなマーケティングエージェンシーが積極的にDXにかかわっていく意義は大きいと思っています。現状、経営戦略や組織戦略は経営コンサルティング会社が、マーケティング領域は我々のような会社がという形で分断されています。しかし、DXという観点に立つとそんなにきれいに割り切れるものではない。

例えば、経営コンサルティング会社が戦略や組織、それに必要なデジタルツールを選定できたとして、そのままではツールを導入して終わりになってしまいます。そのツールを使って顧客とどのようなコミュニケーションを図るのかという点はマーケティングの領域になる。コミュニケーションプランやクリエイティブを駆使する「右脳を使ったDX」をマーケティングエージェンシーとして担っていければと考えています。

 

米田
竹内さんとは少し違った切り口になるのですが、私個人としては企業の文化や人材の変革に対しても力を入れていきたいと思っています。今、本当に危機感を持ってDXの実現を求めているのは企業のミドル層だったりします。しかし、そういった人たちには経営についての意思決定ができないのが実情です。

真剣に会社の変革を求めている人に徹底的に伴走しながら経営課題に対して向き合い、経営層に変革の必要性を説き、会社変革の土壌作りと変革を推進する。こうした形でプロジェクトを進めることで、デジタルを企業に根付かせ、DXが継続的に推進されるご支援をしたいと思っています。

 

<プロフィール>

yoneda

ユナイテッド株式会社
執行役員
米田 吉宏

慶應義塾大学経済学部卒業後、2010年株式会社電通入社。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。

 

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株式会社アイレップ 執行役員
ソリューションビジネスユニット ユニット長
竹内 哲也

NTTデータ、コーポレイトディレクションなどを経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年よりアイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度よりアイレップ専任執行役員。ソーシャルメディアマーケティング支援企業のシェアコト社外取締役も兼任。専門は事業開発。早稲田大学政経学部卒。著書に『統合デジタルマーケティングの実践: 戦略立案からオペレーションまで(東洋経済新報社)』や、5月29日に新刊『デジタル時代の基礎知識『BtoBマーケティング』(翔泳社)』を上梓。

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この記事の著者

DIGIFUL編集部

「DIGIFUL(デジフル)」は、(株)アイレップが運営する「デジタル時代におけるマーケティング」をテーマにした、企業で活躍するマーケティング担当者のためのメディアです。

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