そのクリエイティブ成果、正しく考察できていますか?PDCAのあるべき姿とは

2023.03.28

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運用型広告において、クリエイティブは重要な改善レバーの一ひとつ。成果向上のためにはクリエイティブのPDCAを回すことが重要です。とはいえ「PDCAを回す」は、運用型広告に少なからず携わった人間であれば誰しもが思いつく範囲。「PDCAを回してはいるが、なんとなくうまくいっていない」と思うこともあるのではないでしょうか。得た結果を正しく考察し、ネクストアクションにつなげていかないと、結果「展開するクリエイティブがどれも似ている」という状態に陥りがちです。本稿では、クリエイティブのPDCAの「C(Check)」「A(Act)」を中心に、PDCAのあるべき姿について、アイレップ クリエイティブUnit 伊藤秀之氏に聞きました。

クリエイティブPDCAのあるべき姿は?

- PDCAのあるべき姿とはどのようなものでしょうか?

伊藤
PDCAの各フェーズでしっかりと「意図」を持てているかが重要です。例えば初動の「P(Plan)」「D(Do)」では、マーケティングの観点で「誰にどんなメッセージを伝えるべきか」「何が明らかになれば、次のステップを踏めるか」や「媒体や導線を理解したうえでの配信設計となっているか」などです。

また、成果が出た後の「C」「A」も非常に重要です。得た成果を正しく考察し、ネクストアクションにつなげられていないと、「単発のPDCAに留まる」「似たクリエイティブばかりの配信になる」といった状況が引き起こされ、クリエイティブの展開幅が狭くなってしまいます。

「提案は良かったけれども、実運用だとなんとなくPDCAが回っていない気がする」といった課題感は、「C」「A」が停滞してしまっていることも要因のひとつかなと思います。

 

- 獲得クリエイティブの PDCAに関して、「C」と「A」で停滞するのは何が原因ですか?

伊藤
得た結果の考察が表面的なものに留まってしまうことが要因かと考えます。例えば「タレント起用のバナーが勝った」という結果が得られた場合、表面だけ見ると「タレント起用バナーを量産しよう」というアクションのみになってしまいますが、もう一歩「なぜ勝ったか」の理由を深掘りすると、「見知ったタレントを起用することでの、商材への安心感(=権威性)が良かったのでは」とも考えられますよね。その場合のネクストアクションとしては、「No.1など最大級表現の拡充」など、表現の幅が広がります。「なぜ?」を突き詰めることで、次のステップが幅広くなるわけです。

図1:成果の理由を深堀することでPDCAの停滞を回避する

(図1:成果の理由を深堀することでPDCAの停滞を回避する)

 

- 勝ち/負けの判断は、どこで見るべきでしょうか?

伊藤
基本的には施策のKPIに基づき評価指標を定めるべきです。獲得目的のクリエイティブであれば、CVR、CPA、コンバージョンで評価していくなどが挙げられます。

ただし、それらの評価指標で機械的に判断していくだけだと、前述のとおりクリエイティブ展開幅が狭まり、運用がシュリンクしていきます。

勝ちクリエイティブ・負けクリエイティブ両者で広告の指標すべてを俯瞰し、「この指標の動きは、ターゲットのどのような心理・態度変容でもたらされたのか」を考え、次の展開につなげるのが、私達クリエイティブUnitの仕事のひとつです。

例えば負け判定のクリエイティブの中で、妙にCTRだけ高いバナーが存在していた場合、「誤認などで、商材に関係のない人を連れてきてしまった」もしくは「興味を持ちクリックしたが、LPで嫌気が差し離脱した」などが考えられますよね。仮に後者だった場合、「なぜLPで離脱したか」を突き詰めることで、新しい勝ちを生むアクションが取れます。

クリエイティブレポートを読み解くポイント

- 配信結果であるクリエイティブレポートを読み解くポイントは何でしょうか?

伊藤
大きく分けると、「媒体の理解」「ターゲットの理解」「クリエイティブの理解」「外的要因の理解」の4つだと思います。

 

- 順番に伺います。1つ目の「媒体の理解」とはどういうことでしょうか?

伊藤
「媒体の理解」には、「出面の理解」と「配信アルゴリズムの理解」があります。媒体ごとにどのような面にクリエイティブが表示されたのか、どのような人が存在し、どのようなクリエイティブの反応がいい傾向にあるのか、また、媒体の配信ロジックも踏まえて考察する必要があります。

例えば、Facebook広告とYahoo!のディスプレイ広告では、掲載面の特性がまったく異なりますので、「片方で成果が良かったが、片方では悪かった」というケースが散見されます。それが「掲載面の違いにより、片方では意図したメッセージが伝えきれなかった」なのか「媒体に存在するオーディエンスのインサイト差分」なのかは、媒体の理解がないと考察できません。

 

- 2つ目の「ターゲットの理解」とはどういうことでしょうか?

伊藤
数値としてレポートで跳ね返ってくるものは、「人が何かしらの意思を持ち行動した結果」であることは、普段機械的にレポートを確認しているとどうしてもぼやけてきます。

あくまで「人の行動」なので、「ターゲットのインサイト」を理解したうえでレポートに向き合うことで、読み解きの精度が上がっていきます。

 

- 3つ目の「クリエイティブの理解」とはどういうことでしょうか?

伊藤
「クリエイティブの理解」は、「バナーの構成要素それぞれが持つ成果へのインパクトへの理解」「訴求軸の理解」「導線への理解」「クリエイティブそのものの基礎知識」に分けられます。

まず、「バナーの構成要素それぞれが持つ成果へのインパクトへの理解」ですが、要はクリエイティブを要素に分解して、要素ごとに比較して評価するということです。例えば、静止画バナーの構成要素は、ビジュアル、コピー、トンマナ、レイアウト、全体のデザインです。成果インパクトを考慮すると、最初に目に留めるきっかけとなる「キービジュアル」と、アクションを起こすきっかけとなる「メインコピー」が重要となってきます。このインパクトの順番を押さえておくことで、勝ちクリエイティブAと負けクリエイティブBを比較したときに、どの要素が起因し、この成果になっているか」が読み解き易くなります。

「訴求軸の理解」「導線の理解」は、PDCAの「P」にも関わる部分ですが、「どのような意図を持ち、この訴求を展開したか」「獲得までの導線はどのようになっていたか」は改めて念頭に置きレポートに向き合うべきです。

「クリエイティブの基礎知識」はそのままの意味です。デザインに関する基本的な知識がないと、どこが注目を集めやすいのかということが分からないので、クリエイティブ担当者以外がレポートを読み解く際は、ある程度知識を持ち、臨むべき部分です。

 

- 4つ目の「外的要因の理解」とはどういうことでしょうか?

伊藤
バナーの成果は「内的要因」だけで引き起こされるものではありません。例えば季節・トレンド要因や、競合の出稿状況によっても成果が左右されます。外的要因を無視して検証をおこなうと、成果を見誤ることにもつながります。

考察からネクストアクションへ

- これらのポイントを踏まえた成果判断が、正しい考察へと導くわけですね。

伊藤
レポートの数値はあくまで「事実」であって、「その事実がなぜ引き起こされたか?」を深く考察することが重要ですし、我々の存在意義のひとつであるとも捉えています。PDCAの1タームを終え、最善なネクストアクションを導けているかが、長期的なPDCAを実施するために必要な要素です。

 

- 考察を導き出すためのポイントが多く、非常に複雑で、属人化しそうに思えます。正しい考察を導くために、組織としてはどのような体制で臨んでいますか?

伊藤
おっしゃるとおり経験がものをいう世界ですが、アイレップでは過去の検証で得られたナレッジを社内で共有する場を設けたり、クリエイティブ担当者も「運用担当が受ける研修」に参加したりするなどして、提供サービスの品質担保をおこなっています。

また、「属人化が絶対に悪か」と言われればそんなこともなく、一定の品質を担保したうえで「特定業界やプロダクトに強い」といったメンバーが存在しても良いと思っていますし、そういったメンバーが議論を交わすことで新たな気づきが生まれたりもします。

昨今はAIの発達により、事前にある程度のクリエイティブ成果を予測でき、勝ち確度の高いバナーを配信できるソリューションの開発など効率化に向けての動きもありますが、「想像力を働かせて飛躍アイデアを出す」という部分については、まだ人間が担う部分なのかなと考えています。

考察からのネクストアクション事例

- 考察からのネクストアクションで、具体的な事例があれば教えてください。

事例1

人材業界の案件で複数クリエイティブを配信したところ、「転職後の好転イメージをビジュアルで伝えるため、プライベートの充実シーンを見せる」というバナーのCTRが非常に高く、配信量が大きく寄っていた。しかし該当バナー経由のCVRが低く、広告グループ全体のCPAが上昇していた。

伊藤
CTRが高いのにCVRが低いということは、「LPへ連れてくるターゲットに問題があった」または「遷移したターゲットが求める情報が、LPに存在しなかった」などが仮説として挙げられます。

今回のケースでは前者の要因が強いと判断し、「好転イメージを伝えることは意図どおりできたが、転職緊急度の高くない層まで遷移させてしまったためCVRが低かったのではないか」という仮説を立て、ネクストアクションとして「月までの転職なら」といった転職時期・緊急度を制御するコピーを加え配信しました。

結果として仮説は正しく、CTRの水準を維持しながら、CVRが高まる「勝ちクリエイティブ」となりました。

ここで大事なのは、「CVRもCPAも悪いからそのクリエイティブは負けだ」と切り捨てるのではなく、「なぜCTRは高いのにCVRは低いのか?」という疑問を持つことです。それによって、ネクストアクションを立案することで、新たな勝ちクリエイティブのパターンを発見することにつながりました。

図2:成果への疑問をActionに反映することで新たな勝ちクリエイティブを発掘する

(図2:成果への疑問をActionに反映することで新たな勝ちクリエイティブを発掘する)

 

事例2

「ポイント還元キャンペーン施策」の集客施策において、動画・静止画フォーマットを網羅しディスプレイ配信をおこなったところ、動画クリエイティブは全体的に獲得につながらず、配信量も伸びなかった。

伊藤
「動画は成果観点・制作コスト観点でも今後配信しない」という結論に落ちがちですが、本事例ではまず「なぜ動画の成果が悪かったのか」を深掘り考察しました。

静止画は「還元ポイント数」を端的に表現した内容、対して動画は「ポイントの利便性も含めて、ストーリー仕立てでキャンペーンを説明する内容」となっていました。 「キャンペーン施策は突発的なモチベーションの高まり、いわゆる衝動買いのような態度変容が必要」という前提で考察すると、「動画は情報過多となっており、ターゲットはクリックをおこなう前にキャンペーン参加可否について深く検討してしまい、結果“衝動買い”が生み出せなかったのでは」という仮説に辿り着きました。

そこで、動画の情報量を静止画とほぼ同程度まで落とし、「静止画の一部が動いているだけの、アテンションに特化させた動画」を制作し配信したところ、動画経由での獲得が大幅改善し、静止画を超えるほどの獲得成果を生み出せました。

先ほどの事例1と同じく、単純に数字だけで負けクリエイティブと判断して切り捨てていたら、この勝ちクリエイティブは生まれなかったわけです。

図3:訴求要件とユーザーインサイトを深堀しながらネクストアクションを考える

(図3:訴求要件とユーザーインサイトを深堀しながらネクストアクションを考える)

 

- 最後に、クリエイティブのPDCAがうまく回せていないのではないかという課題をお持ちのクライアント企業の担当者へ、一言お願いします。

伊藤
クリエイティブのPDCAには、日々の業務経験により培われた理解力と考察力が求められます。こうした技量や専門的な知識を身につけるには、ある程度の期間が必要です。

もちろん、インハウスで運用することも可能ですが、一度私たちアイレップのような外部の会社に依頼してみて、運用体制を構築するのが良いのではないかと思います。

獲得クリエイティブ運用に際して、なんとなくPDCAが回っていない気がする、勝ちクリエイティブのバリエーションが減っている、長期的にCPAが上昇している、といった課題をお持ちのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください

 

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この記事の著者

伊藤 秀之

2018年にアイレップへ入社。人材・教育・アプリなど、BtoC・BtoB問わず幅広い業界の広告プランニング・クリエイティブを担当。現在は獲得領域のクリエイティブ企画・制作を担当する部署のマネージャーとして従事。2021年度上期社内表彰にてIREP AWARDを受賞。

2018年にアイレップへ入社。人材・教育・アプリなど、Bto...

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