あなたのフォロワーは本当に「ファン」ですか?ファンベースマーケティング戦略ウェビナーレポート

2021.07.28

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アイレップでは、2020年12月17日(木) にオンラインにて『あなたのフォロワーは本当に「ファン」ですか?ファンベースマーケティング戦略ウェビナー』を開催しました。
講演は、株式会社シェアコト プロデューサー・プランナー 武者 慶佑※1と、アイレップ第1コミュニケーションデザインUnit 平 知己※2、伊藤 亜莉紗※3が務めました。

企業にとってSNSマーケティングは欠かすことができない手段のひとつとなりつつあります。SNSを活用して企業や商品の「ファン」をつくる手法が多く語られるなかで、自社のSNSアカウントのフォロワーを「ファン」と捉え、フォロワー数を増やす施策に偏る企業も少なくありません。ファンベースマーケティングにおいては、フォロワー≠「ファン」と考え、フォロワーをいかに「ファン」へと育成していけるかが重要なカギとなります。

当ウェビナーでは、主にTwitterを対象として、熱量を持った「ファン」と、ファンベースマーケティングに関する本質的な理解を目的とし、自社のSNSアカウントのフォロワーをどのように「ファン」へシフトさせていくのか、その効果的なコミュニティの設計・運用方法についてお話ししました。

本記事では、ウェビナー内容の一部を紹介いたします。

※1:武者 慶佑の2021年7月現在の所属は「アイレップ プランニング&クリエイティブUnit インタラクティブデザインDiv」です。

※2:平 知己の2021年7月現在の所属は「アイレップ プランニング&クリエイティブUnit インタラクティブデザインDiv」です。

※3:伊藤 亜莉紗の2021年7月現在の所属は「アイレップ プランニング&クリエイティブUnit インタラクティブデザインDiv」です。

Z世代の偏愛パワー

(講演:アイレップ 第1コミュニケーションデザインUnit 伊藤 亜莉紗)

第1部では、2018年にアイレップに新卒入社したプランナー・伊藤が、Z世代と呼ばれる若年層が持つ「偏愛」の力について解説した。

まず、伊藤自身にとって現在の偏愛対象である韓国アイドルグループについて、人気の要因を考察。ファンに向けて提供される「ネタ」(SNSに投稿される動画など)が豊富であることから、ファンが自発的にコンテンツを創作する循環が生まれ、それらのコンテンツがさらにファンの熱量を高めていると述べた。

さらに、熱量を持ったファンによって生成されるコンテンツのことを「UGC(User Generated Contents)」ならぬ、「UJC(User Jiyu Contents)」と定義。ファンが偏愛対象を再解釈して自由な表現で生み出すコンテンツ、すなわちUJCが、SNS上のファンコミュニティの盛り上がりを生み出し、さらなるUJCが生み出される循環を作り出していると解説した。

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(図 1:UJCが生み出される循環)

ファンの偏愛スイッチが入る文脈を捉えられなければ、現代のファンを動かすことは難しい。ファンベースマーケティングにおいては、対象がこれまで歩んできた歴史や、ファンにしか分からないキーワード、偏愛対象が持つメッセージ性など、ファンが反応するファクターを押さえることが不可欠であると語った。

広告から広場へ/UJCとは

(講演:アイレップ 第1コミュニケーションデザインUnit 平 知己)

第2部では、アイレップのエグゼクティブクリエイティブディレクターである平が、ファンベースマーケティングを実施する上で押さえておくべき真実について、実例を基に解説した。

UJC活性化に成功した「オレたちのゆきこたんプロジェクト」

ファンによるUJC生成を促進するためには、ファンが自由に遊べる「場」をつくることが重要であると述べたうえで、実例として過去に平自身が手掛けた「オレたちのゆきこたんプロジェクト」を挙げた。

この企画は、雪印メグミルク株式会社の商品「雪印コーヒー」の発売50周年記念に手掛けたもの。同商品は発売以来50年間、味やパッケージを大きく変更してこなかったため、ブランドとしての陳腐化が課題として挙げられていた。
それを解決するために実施されたのが、ユーザー参加型の企画であった。「雪印コーヒー」のパッケージに掲載する公式キャラクターを公募し、趣味でイラストを描いているユーザーに応募を促したところ、なんとユーザーからは9,000を超える応募があったという。
こうしたユーザーの自発的な行動を促す働きかけが、冒頭で述べたファンが自由に遊べる「場」をつくることを指している。

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(図 2:実際に発売された限定パッケージの「雪印コーヒー」)

その後、募ったキャラクターの中から6人を選定し、人気投票をおこなったり、コミックマーケットにブースを出展したりと、ニュースを作るための施策を毎月実施。その結果、継続的な話題化に成功した。

最もインパクトがあったのは、UJCによる情報拡散だったという。ユーザーとの間に絆が生まれたことで、UJCが次々に生成され、広告予算を超えた量のクリエイティブが世の中に出ていく。さらにUJCを公式アカウントで取り上げることで、よりユーザーとの絆が深まる。そうした好循環が、自然とソーシャルメディアでのニュース化に繋がっていき、売上は110%を達成した。

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(図 3:「オレたちのゆきこたんプロジェクト」で創出されたUJC)

ファンベースマーケティングの真実

「雪印コーヒー」の事例を踏まえ、ファンベースマーケティングに取り組むうえではコンテンツに対する情熱がすべてである、と述べた。さらに、どんなブランドでもファン化できるとは言えず、これまでブランドが蓄積してきた価値を見える化するのがファンベースマーケティングであると語った。

ファンとブランドとは等価交換の関係性にあるという。キャンペーンを実施するうえでは、今までブランドを愛してきたファンの想いを汲み取ることを忘れてはならない。ファンとの信頼関係を築くことで、UJCの好循環を生むことができると解説した。

ファンの発見とコミュニティ運用のコツ

(講演:株式会社シェアコト プロデューサー・プランナー 武者 慶佑)

第3部では、株式会社シェアコトのプロデューサー・プランナーであり、日本グミ協会の会長も務める武者が、主にTwitterを対象とした「ファン」の捉え方や見つけ方、熱量の生み方について解説した。

フォロワー数=ファン数ではない

まず初めに、武者自身が創立した日本グミ協会のTwitterアカウント(@japan_gummy)のフォロワー数の推移を例として紹介。フォロワー数はフォロー&リツイートキャンペーンを実施したタイミングで一次的に増えるが、キャンペーン後は徐々に減少していくことを説明したうえで、「フォロワー数=ファン数ではない」と述べた。

では、どういったユーザーが「ファン」と定義できるのか。武者は、偏愛を起点に能動的に行動を起こすユーザーであれば「ファン」と呼べるのではないかと語った。つまり、ただTwitterアカウントをフォローしているだけのユーザーを、「ファン」へシフトさせていく必要がある。

留意しておくべきは、「ファン」であれば必ずUGCを作るとは限らないという点である。偏愛対象があっても、自ら手を動かしてUGCを作った経験のある人はそう多くないはずだ。今やZ世代やオタクといった偏愛ファンの構造的な理解はきわめて難しい。武者は自身が提唱した分析モデルを提示したうえで、近年のファンコミュニティはコロニー化し、もはや把握できる範囲を超えていることを理解しておく必要があると説明した。

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(図 4:4C分解)

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(図 5:5C理解)

勝手な熱量を生む方法

ファンの在り方が複雑化している中、いかに熱量を生むかが施策の肝になる。ファンの間に「勝手な熱量」を生むきっかけとして、新商品の情報解禁や、「○○の日」などの記念日が挙げられる。そしてツイート数が一気に伸びたタイミングと、平常のツイート数との差分にこそ、ファン化の可能性があると武者は指摘した。

さらに、日本グミ協会の事例で実践した「ZYX戦略」を紹介。下図の左側、Y軸方向に伸びているのがインフルエンサー型の拡散を示している。これらはファンコミュニティの内ではエンゲージメントを獲得できても、コミュニティの外にいるユーザーには届かない。そこで、X軸方向に伸ばすシミュラークル型の拡散を起こす必要がある。実際に武者は、カンバセーショナルカードやプロモトレンド を活用し、「グミの日」をトレンド1位に入れることに成功した。 Y軸の偏愛を、より多くのユーザーに向けて横に拡散させることで、広範囲で熱量を生み出せるという。

 

(図 6:ZYX戦略)

フォロワーに熱量を与える運用

アンケートやハッシュタグなど、熱量を生むためのTwitterの運用手法は多岐にわたる。フォロワーを動かすには、Twitterの各種機能の特徴を理解したうえで、企画を考えていく必要がある。

(図 7:Twitterの各種機能)

これらの機能を活用し、能動的に動きたくなるきっかけを作ることで、突発的な消費(パルス型の消費)を生むことができる。そうしてフォロワーを「動くフォロワー」すなわち「ファン」へとシフトさせていくことが、Twitterでのコミュニティ運用を成功に導くと結んだ。

まとめ:消費行動の変化に対応する新しいマーケティング

(講演:アイレップ 第1コミュニケーションデザインUnit 平 知己)

最後に本セミナーの総括として、現代のユーザーの消費行動の変化と、ミドルファネルを攻略するためのマーケティングについて、平が解説した。

パーチェスファネルの変化

スマートフォンが普及したことで、パーチェスファネルに大きな変化が起こった。かつては興味関心や比較検討のファネルを形成していた新聞や雑誌は、インターネット上のコンテンツ群に置き換わった。また、店頭だけでなくECサイトなど購入のチャネルも増えた。その結果、認知から購入までの距離が以前よりも遠くなっていると言われている。認知と購入の間に存在しているミドルファネルを攻略し、いかに購入まで結びつけるかが、現在のデジタルマーケティングにおける課題とされている。

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(図 8:パーチェスファネルの変化)

スマホ世代のモノの買い方

スマホ世代は、必ずしも認知からスタートするのではない。SNSなどを通じて出会った商品に対して、瞬間的にニーズが発生し、一気に購入まで至ることがある。この突発的な消費行動を、パルス型消費行動と呼ぶ。

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(図 9:消費行動の変化)

 

実際、Googleの調査結果によれば、ブランドを買う直前まで認知していなくても、結果的に商品を購入するユーザーが増えているという。平はこの結果から、認知広告の重要性は低下していると指摘した。また、カスタマージャーニーが大きく変化している今、「認知しているかどうか」よりも「ピンと来るかどうか」が、購入を左右する重要なポイントであると語った。

出典:Think with Google 2019年6月 「データから見えた「パルス型」消費行動——瞬間的な購買行動が増えている:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(2)

(図 10:Googleによる調査(ブランド認知と購買行動の関連性))

パルス衝動を引き起こすマーケティング

最後に参考として、Googleが2019年に提唱した「『パルス型消費』を促す6つの直観センサー」 を取り上げた。例えば「フォロー(売れているものや第三者が推奨するものに反応する直感センサー)」は、第1部で伊藤が語ったような、好きなアイドルやインフルエンサーが紹介したモノを購入する際のトリガ―となるセンサーと言える。

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出典:Think with Google 2019年6月 「消費者が「ピンとくる」6 つの直感センサー:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(3)

(図 11:Google「『パルス型消費』を促す6つの直観センサー」)

さらに、Googleによる分析結果から、アパレル商品に反応する直感センサーのパーセンテージを紹介 。最も値が大きい「パワーセーブ」は、買い物の労力を減らせることに反応する直感センサーだ。つまり「自分に合う服を効率よく購入できればいい」と考えているのが今の消費者の思考傾向であるということを示している。この結果にも「SNSで好きな人がおすすめしているものなら、自分のセンスにも合っているだろう」と信じて購買に至る、スマホ世代の購買行動が表れていると平は語った。

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出典:Think with Google 2019年6月 「消費者が「ピンとくる」6 つの直感センサー:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(3)

(図 12:洋服の直感センサー)

最後に平は、本セミナーを通して解説してきた「偏愛」を起点としたパルス衝動に注目し、新しいマーケティング施策に取り組んでいきたいと述べた。Googleの分析からも、パルス型消費行動には様ざまなセンサーが関与していることが分かっている。これらのセンサーの商材ごとの傾向を加味したうえで、ユーザーの「好き」の感情を刺激し、パルス衝動を起こして購買行動を促すマーケティングに挑戦していきたいと結んだ。

 

この記事の著者

井上 孝恵

現代アーティストのアシスタントやメディア会社を経て、2006年グループ会社であるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社に入社。アドテクノロジー領域を担当後、メディア担当として新聞社、出版社、放送局を中心としたマスメディアのデジタル領域に携わる。2018年にアイレップへ出向し、広報・マーケティング領域を担当。2019年4月に現職であるクリエイティブ部署のマネージャーに就任し、テレビCM制作からコミュニケーションデザイン設計、予算設定・管理や人員調整まで、クリエイティブの領域を幅広く統括する。

現代アーティストのアシスタントやメディア会社を経て、2006...

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