ゆうこす&社内インフルエンサーと考える、ライブコマース成功の鍵【アドテック東京2021レポート】

2021.12.08

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インフルエンサーの影響による買物行動が注目され、ライブコマースなど新しい手法を導入する企業が増えています。インフルエンサーコマースを成功させる鍵とは何なのか、そしてその本質的な価値とは?プロコマーサー(ライブコマース配信者)であるゆうこすさんと、ライブコマースによる売上が好調なファンケルで社内インフルエンサーとして活動する寺西麻帆さんを招いて語りました。

本稿では11月1日、2日に開催されたアドテック東京2021のセッション「インフルエンサーコマース成功の境界線」の模様をお届けします。

菅本 裕子(ゆうこす)
株式会社321 ファウンダー

寺西 麻帆
株式会社ファンケル 広告宣伝部PR担当

モデレーター
武者 慶佑
株式会社アイレップ ライブコマース・エヴァンジェリスト

※本記事は博報堂DYグループの「生活者データ・ドリブン・マーケティング通信」より転載しました。

企業はなぜPRにインフルエンサーを使うのか

武者
今日は「インフルエンサーコマース成功の境界線」がテーマということで、モノが売れるインフルエンサーとは何なのかについて考えていきたいと思います。私はアイレップでライブコマース・エヴァンジェリストとしてライブコマースを広める仕事をしています、武者慶佑と申します。グミが大好きで、「日本グミ協会」というアカウントでSNSをがんばってきたんですが、私がやっているのはいわゆるバズる系の旧態依然としたインフルエンサーでして、今日お招きしているお二人は、次世代型のインフルエンサー。プロのゆうこすさんと、社内インフルエンサーとして活動されているファンケルの寺西麻帆さんをお招きしています。

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ゆうこす
タレントやユーチューバーとして活動しながらYOAN(ユアン)というD2Cブランドをやっていたり、ライバーのマネジメント事務所を運営しています、ゆうこすです。日本で一番モノを売っているライブコマーサーかな、と思っていますので、今日は実際の活動のなかでの体験をお話ししたいと思います。

寺西
ファンケルでPRを担当しています寺西と申します。私は2018年に新卒でファンケルに入社して、昨年コロナ真っただ中の2020年6月に広告宣伝部に異動になりました。そのタイミングで、お客さまとの新しいコミュニケーションチャネルをつくろうということでライブコマースをはじめました。広告宣伝部としてインフルエンサーの方々に依頼させていただくこともありますが、今日はコマーサー視点でもお話しさせていただきたいと思います。

武者
はじめに、いまは社会背景として“インフルエンサーからモノを買いやすくなっている時代”であるといえます。それは、買い物の仕方がカスタマージャーニー型からパルス型に変化して、ネットで瞬間的にポチれるようになったことや、フィルターバブルで広告によるプッシュ型から、好きなインフルエンサーからの“推し売り”へとシフトしていることなどが要因です。そこでおふたりにききたいのが、なぜ企業はPRにインフルエンサーを使うのかということ。依頼を受ける側であるゆうこすさんと、依頼する側である寺西さん、それぞれどう思われますか?

ゆうこす
シンプルにいうと、自社の製品を広めたいとか、私のファンにダイレクトに効かせたいという理由だと思います。私も責任をもってブランドのことや製品のことを語れるように、ミーティングのときにたくさんお話しして、魅力を引き出すようにしています。

寺西
企業側としては、やはりゆうこすさんのファンの高い熱量が魅力です。共感とか憧れといった熱量がパワーを生んでいると思います。単純にモノが売れるというだけでなくて、ブランドの価値観を知ってもらう入り口になるということが重要ですね。

武者
企業としては、ファンの熱量を利用して購買につなげたいという取引ですよね。おふたりの共通項としてはライブコマースをやられていることですが、その事例についてお話しいただけますか?

ライブコマースと動画コマースはまったく違うもの。大切なのはライブ感

ゆうこす
私がやっているスキンケアブランドでは、1回の配信で2000万円を売り上げることができました。ライブコマースって動画コマースではないんですよ。ライブ感が大切。いまプロセスエコノミーなんて言われていますが、販売までの過程を見ていただくために「今日ついに販売になります!」という感じで配信中に販売をスタートさせました。あと、定期的にやるのは、配信中だけのクーポンを出すこと。中国では、インフルエンサーの人気によって何%オフというランク付けがあって、それがステータスになっているんですね。だからインフルエンサーに依頼するときは、ぜひ特別なインセンティブをつけて依頼していただきたいと思います。

武者
ただゆうこすさんが売っているから売れる、というわけではなく、ちゃんとテクニカルな部分があるということですよね。

ゆうこす
そうですね。日本にライブコマースが入ってきたとき、芸能人が台本を読みながら30分「動画コマース」をやったと思うんです。あれはもったいなかったですね。

武者
ライブコマースと動画コマースって全然違うものですもんね。企業としてライブコマースで成果を出しているファンケルさんはいかがですか?

寺西
そもそも私たちがなぜライブコマースをはじめたかと言いますと、弊社は全国に200以上の店舗を展開していますがコロナ禍でほとんどの店舗が休業してしまいました。お客さまとのリアルなコミュニケーションを大切にしている会社なので、そこをどうにか埋められないかということでオンラインでのコミュニケーションを開始し、そのひとつにライプコマースがあります。初回の配信が2020年7月で、そこから1年間で約70回配信しまして、その間会社内にスタジオもでき、新しいコミュニケーションチャネルとして確立してきました。1年間のリアルの視聴者はのべ31万人、アーカイブ視聴も含めた1回あたりの視聴総数は1万5千人と、多くのお客さまとコミュニケーションがとれています。

ライブコマース成功のために重要なのは、“人”?それとも“モノ”?

武者
いまコミュニケーションという言葉が出てきましたが、これは動画コマースではなくライブコマースだから生まれるものですよね。ここで、ユーチューバーやライバーといったインフルエンサーと、ライブコマースをする“コマーサー”の違いについて図にしてみました。
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インフルエンサーは、情報を不特定多数の人に広げる拡散力のある人、ユーチューバーは企画やコト軸を通して不特定多数の人にコンテンツを発信する人、ライバーは人対人の双方向のコミュニケーションを通じて発信する人。そしてコマーサーは、モノ軸を通して双方向でコミュニケーションする人。この違いをふまえたうえで、ライブコマースを成功させるためには“人”が重要なのか“モノ”が重要なのか、おふたりはどう思われますか?

寺西
私がライブコマースをするうえで一番大事にしているのは、モノのストーリーです。ライブコマースの場合、もちろん商品の魅力を伝える“人”ありきではありますが、ただ商品を紹介するだけでなく、そのモノが持つストーリーを語ることが重要。たとえば化粧品に3つの成分が入っているとして、その成分が入っているのはサイトを見ればわかることですが、なぜそれを入れようと思ったかの開発者の思いや研究の苦悩といったストーリーを伝えることなどです。ライブコマースならではのコミュニケーションで視聴者の共感を生むことが、ライブコマースを成功に近づけるヒントになるのではないかと感じています。

武者
モノに対する熱い思いを人が熱く伝えるということですね。ゆうこすさんはどうでしょう?

ゆうこす
私はまず“人”が優先かなと思っています。インフルエンサーに求められるのは、いかに華やかで憧れられるか。ユーチューバーだったら、いかに企画がおもしろいか。ライバーはどれだけ双方向のコミュニケーションができるか。コマーサーの技術は、そのどれとも違うものだと思っています。リアルタイムでコメントを拾いながら、販売の状況を確認しつつ、もうDJですよね。そもそも配信を見にきてもらわないとはじまらないので「この人が話していると楽しそう」と思ってもらわないといけないですし。そういう意味で、まだコマーサーをできる人は少ないと思います。だから依頼する方も発想を変えてもらって、普段前面にだしている“商品のいいところ”じゃなくて、裏側の開発秘話を伝えてあげてほしいです。

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武者
やはりゆうこすさんとしては、コメント力やDJ力という“人”のスキルがあって、そこにモノの力が加わると強いということですね。寺西さんは企業側でもあり、コマーサーでもあるわけですが、いかがですか?

寺西
私はゆうこすさんと違って、寺西が出ているから見るという人は親戚くらいしかいないので(笑)、いかに見ていただくかを考えると、どのようにモノのストーリーを魅力的に語るかということになります。ファンケルのライブコマースでは、毎回、研究員や開発者、販売員と司会者の2人体制で配信しているんですが、商品の表側には見えない部分を伝えていくことの重要性を感じています。

ライブコマースの目的はコンバージョンかコミュニティ形成か

武者
人もモノのストーリーも両方重要だとわかっていながら、どちらが優先となると本当にむずかしいですね。そのバランスをうまくとれている企業はまだまだ少ないなかで、ファンケルさんは1年間のライブコマースを通してしっかりとしたファンケルコミュニティを形成しているようにお見受けします。

寺西
そうですね、ファンケルは本当に熱いファンの方がたくさんついてくださっていると思います。

武者
それは人という軸を介さずとも、モノにちゃんとファンがついてくれているということですよね。そこがファンケルさんの強みなんだなと思いました。さいごのテーマとして、ライブコマースの目的は最終的に売上なの?それともコミュニティをつくることなの?という問いについて考えていきたいと思います。まずライブコマースは4つの型に分かれるというお話から。
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ゆうこすさんのようなプロコマーサーを起用するか、ファンケルのように社内の人材を起用するかが縦軸。横軸がコンバージョンをとるかコミュニティをつくるかの目的軸。これら4つのどこに当てはまるかによってライブコマース論が分かれてくるので、自社の課題に対してどこが最適なのかを考えていく必要があると思います。おふたりは、ライブコマースの目的はコンバージョンだと思いますか?コミュニティだと思いますか?

ゆうこす
コミュニティ形成からコンバージョンという順番だと思います。ライブコマースはどれだけコミュニケーションをとれるかだと思っているので、最初にバーンと打ち上げ花火を上げるよりも、インハウスコミュニティ型を継続してしっかりブランドのファンをつけた後にKOL(Key Opinion Leader)イベント型にもっていったほうが、ブランドのファンからしてもうれしいと思うんです。逆にKOLイベント型からインハウスコミュニティ型にいってしまうと、インハウスのコマーサーに相当の能力が求められてしまうと思います。

寺西
ファンケルの場合、店舗の休業でお客さまとコミュニケーションがとれなくなってしまったのがライブコマースをはじめたきっかけだったので、最初はコミュニティのためにスタートしたものでした。でも1年以上続けてきているとそれだけで終わらせたくない気持ちもあって。とはいえ、割引率を高めてコンバージョンをとっていくようなやり方をしてしまうと、これまでコミュニティを大事にしてきたライブコマースなのに、それでいいのか?という思いもあります。やっぱりコミュニティを形成するなかでコンバージョンがとれるようになるのが一番いいですよね。しっかり商品のストーリーをお伝えすることで、ブランドへの好意度って少しずつ上がっていくと思っています。そうすれば、ライブコマースだけでなく、店舗や通販など他の売上も増えると考えています。

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武者
ライブコマースは視聴者数=コンバージョンというわけではないですから、有名人を連れてきて1万人見てくれたけど10個しか売れなかったというのと、社内コマーサーを使って視聴者数は100人だけど、その100人がすごく熱量のある人であるというのと、どちらの価値が高いかですよね。100人でも熱いファンがいたら、すごくいいんじゃないかと思うんです。
これまでインフルエンサーコマース成功の境界線ということで、人軸なのかモノ軸なのか、コンバージョンなのかコミュニティなのかというお話をしてきましたが、さいごに今日の感想や気付きなどを伺いたいと思います。

ゆうこす
大切なのは、企業がいかにインフルエンサーに商品の魅力を伝えられて、“オタク化”させることができるかだと思います。私はどんな商品の依頼をいただくときも、打ち合わせを重ねるなかで相当オタク化しているので、いくつかポイントを書いたメモを見るだけでめっちゃしゃべれる。そこがしっかりできていれば、ライブコマースは相当コンバージョンをとれると思います。

寺西
私もインフルエンサーさんにご協力いただくときは、我々と同じ熱量でやっていただくことが大切だと思っていて。ただ華やかな方が隣にいて、ファンの視聴者さんを連れてきてくれるだけでなく、その方の言葉でブランドのストーリーを語っていただくというのが成功の秘訣だと思います。

武者
モノの裏側の魅力までインフルエンサーに事前にどれだけ伝えていますか?そしてコマーサーが高いスキルでお客さまとコミュニケーションをとっていますか?このふたつがコンバージョンレートを高める“成功の境界線”なのかなと感じました。これからもぜひ、ライブコマースにご注目いただきたいと思います。今日はありがとうございました。

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菅本 裕子(ゆうこす)

株式会社321 ファウンダー
 
 
 
 
 
1994年、福岡県生まれ。「モテクリエイター」として、SNSを中心にタレント、インフルエンサーとして活躍中。スキンケアブランド「YOAN」の立ち上げや、ライバー事務所「321」のファウンダー、アパレルブランド「REVEYU」、カラーコンタクト「chu’s me」のプロデュースなど、多岐に渡り事業を展開。その他、著書に『#ライブ配信の教科書』など。SNSの総フォロワー数は190万人以上。
 
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寺西 麻帆
 
株式会社ファンケル 広告宣伝部PR担当

 

 


2018年新卒でファンケルへ入社。通販チャネルの購買担当を経て、2020年6月に広告宣伝部へ異動。現在は主にサプリメントを中心に、美容賢者、メディアへの商品PR業務を担当。コロナ禍における新たなチャネルの開拓として「ライブショッピング」の立ち上げにも携わり、2020年度の社長賞を受賞。また、従業員インフルエンサーとして日々ファンケルの企業・商品情報をSNSで発信し、お客様のエンゲージメント強化に努めている。プライベートでは発酵食品マイスターの資格を取得し、美と健康のための“腸活“に励んでいる。

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武者 慶佑
 
株式会社アイレップ
ライブコマース・エヴァンジェリスト
 
 
 
 
事業会社のマーケティング部を経て、2012年よりシェアコトに勤務。2021年4月よりアイレップに参画。ブランドファンの構築とコンテンツファン視点の企画が専門。これまでSNS分析をベースに、通信・製薬・自動車・小売・金融など、業界を問わずファン視点のエンタメタイアッププロモーションや、映画宣伝のコンサルティング、カフェチェーンのブランドマネージャー、世界コスプレサミット社外取締役なども歴任。また、自身で日本グミ協会を設立し、会長として活動(2021年9月4日より名誉会長)。マツコの知らない世界など多数のメディアに出演し、SNSフォロワーは延べ80,000人。しゃべれるグミインフルエンサーとして活動する中で、現在はライブコマース・エヴァンジェリストとして啓蒙活動。

この記事の著者

DIGIFUL編集部

「DIGIFUL(デジフル)」は、(株)アイレップが運営する「デジタル時代におけるマーケティング」をテーマにした、企業で活躍するマーケティング担当者のためのメディアです。

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