MozCon 2020セッションレポート:コンテンツエンジンの設計:アイデアから創造、流通へ

2020.11.16

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MozConとは、SEOに関連したツールやコンサルティングサービスを提供する米Mozが開催している、デジタルマーケティングのカンファレンスです。毎年7月頃に米国シアトルで開催されていましたが、今年は新型コロナウイルスの影響で「MozCon Virtual」として7月14〜15日にオンラインで開催されました。

本記事では、B2Bのブランドを対象としたコンテンツマーケティングエージェンシーであるFoundation社のCEO、Ross Simmonds氏(以下、シモンズ氏)の「コンテンツエンジンの設計:アイデアから創造、流通へ」についてのセッションをレポートします。このセッションでは、コンテンツマーケティングで成果をあげるための取り組みについて、ディズニーの取り組みを例にして紹介されました。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図1:Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distributionと題してセッションを行ったFoundation社のシモンズ氏)

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ディズニーが採用するモデルと組織のコンテンツ開発

シモンズ氏は、ディズニーがコンテンツマーケティングで最良の取り組みをしている会社のひとつとしたうえで、本セッションではディズニーで実行されているコンテンツマーケティングを同じように組織内でおこない、成果を出す方法を紹介すると述べました。

ディズニーで採用されているディズニークリエーションモデルでは、アイデアが固まったら、構想プロセスの初期で、図2の上部に位置するストーリーやスケッチ、スクリプト、キャラクターモデルなどコアとなる要素を形作ります。これが終わると、音楽やアニメーション、カメラ、制作チームなどの要素を決めるプロダクションマネジメントのプロセスに移り、さまざまな編集を経て一般に公開されていきます。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図2Disney CREATION Modelでは、ストーリーなどコアとなる要素が確定した後に、音楽やアニメーションなどその他のさまざまな要素の検討に入る)

 

シモンズ氏は、組織がコンテンツを作成するときに必要なプロセスもこれとほとんど同じであり、下記の流れになると述べました。

・組織内の誰かがブランドストーリーやメッセージ、そのコンテンツで何を達成したいかなどについてアイデアを持っている
・そのアイデアをもとにフレームワークを開発する
・ドラフトを作成し、コンテンツ開発に携わる人々のレビューを受け、必要な編集を加える
・一般に公開する

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図3:組織における一般的なコンテンツ開発の流れ)

 

コンテンツはアセット(資産)と捉える

シモンズ氏はコンテンツの位置づけを下記としたうえで、コンテンツは非常にポピュラーでだれでも利用できるため、組織のコンテンツマーケティングではオーディエンスが望むコンテンツの作成に焦点を当てることが重要と述べました。

・文化の基盤であり、インターネットの基盤になっている
・情報を得るためにコンテンツが使われている
・他者とのコミュニケーションでもコンテンツが使われている
・シモンズ氏のセッションもコンテンツのひとつ

 また、ブログ投稿やツイート、YouTubeの動画などは単なる情報ではなく、今後数年間活用できるアセット(資産)と認識する必要性についても述べられました。金融危機が起きた2008年以降、継続的に「social media marketing(ソーシャルメディアマーケティング)」や「software as a serviceSaaS)」の検索トレンドは上昇しました。これらは当時認知され始めたばかりの概念でしたが、不況下でも人々が常にコンテンツを探していたことを意味しています。当時の金融危機や現在の新型コロナウイルス、将来発生するかもしれない危機においても、混乱の中で質問に答えるコンテンツは、文化に影響を与えることができます。こういった背景から、シモンズ氏はコンテンツにかかるコストを単なる費用としてみなすのではなく、組織内で今後数年間活用できる資産の開発費用として扱うべきと述べています。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図4:「social media marketing(ソーシャルメディアマーケティング)」と「software as a service(SaaS)」の検索トレンド)

コンテンツの作成:ポートフォリオをレビューする

コンテンツの作成に関して、シモンズ氏はまず自社で既に保有しているアセット(コンテンツ)について、「Remix(リミックス)」「Revise(リバイズ)」「Remove(リムーブ)」「Redirect(リダイレクト)」の余地を検討することを推奨しました。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図5:コンテンツを見直すときの4つの”R”)

 

「Remix(リミックス)」とは過去のコンテンツをもとに別のタイプのコンテンツとして再利用すること、「Revise(リバイズ)」とは過去のコンテンツを新しい情報に更新すること、「Remove(リムーブ)」は機能していないコンテンツを削除すること、「Redirect(リダイレクト)」は、例えば、現在はトラフィックがないが一定のリンクを得ているコンテンツ、などを対象に別のページにリダイレクトすることを指します。

コンテンツを作成するときに、保有している資産を見直す戦略はディズニーでもおこなわれています。ディズニーが過去2年間でヒットさせた映画(ライオン・キングやアラジン、ダンボ)に共通するのは、古い物語を書き直しているということです。これらは、もともと70~90年代に作成されたものを、現代的なタッチで再編集して公開し、多大な収益をもたらしました。現代で再度ヒットしたのは、古いストーリーのコアが現在でも人々とつながっていることが要因です。自社のコンテンツでも同じことをすれば成功する可能性があります。

コンテンツの作成:リバースエンジニアリングする

コンテンツアイデアの素材は、自社の情報に限定する必要はありません。ライオン・キングがシェイクスピアのハムレットから着想を得たとされている通り、他の場所でアイデアを探すこともできます。コンテンツのアイデアを得るための手法のひとつとして、成功している企業の取り組みをリバースエンジニアリングすることが推奨されました。シモンズ氏は、この取り組みを「The Sherlock Homeboy Technique」と呼んでいます。

・Wayback Machineを用いて成功している企業の取り組みをリバースエンジニアリングする
過去のWebページを閲覧できるWayback Machineを用いて、成功している企業はどのようにしてトラフィックを集め始めたのか、過去にどのようなコンテンツを公開していたのか、などを調査します。
参考:Wayback Machine

・リンクを得ているコンテンツをリバースエンジニアリングする
リンクを得ているコンテンツを分析し、コンテンツ作成に繋げる方法もあります。Foundation社が、HubspotMozBacklinkoのコンテンツのリンク獲得状況を調査した結果によると、「ツール」タイプのコンテンツがもっとも多くリンクを獲得していました。次いで用語の「定義」を示すコンテンツ、その次に「統計データ」や「調査結果」を掲載したコンテンツがリンクを獲得していました。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図6:コンテンツタイプ別のリンク獲得数の比較)

 

Foundation社は、さまざまなソーシャルメディアチャネルの統計データを保有しており、この調査での「統計データ」に該当するタイプのコンテンツの作成が可能です。シモンズ氏は、LinkedIn、Reddit、Quora、YouTube、Instagramについての統計データを紹介するコンテンツをそれぞれ公開しました。すると、これらのコンテンツは数日でリンクを獲得し始め、LinkedInについて扱った記事では「LinkedIn」という検索キーワードで一時的に1ページ目に表示されるようになるなど、大きな成果を得られたと話しました。

・YouTubeでリバースエンジニアリングする
YouTubeの検索結果もリバースエンジニアリングに役立ちます。例えば、ガーデニングに関するコンテンツを展開しようとしている場合、YouTubeで「ガーデニング」と検索するとたくさんの動画が投稿されていることがわかります。その中で、上位にバジルの繁殖に関する動画が表示され、再生回数が多いことに気づいたら、バジルの繁殖に関するコンテンツを作成する必要があるというインサイトになります。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図7:YouTubeの検索結果からコンテンツのアイデアを得る)

 

・キーワードツールを使ってリバースエンジニアリングする
検索数などがわかるキーワードツールを使って、人々が検索に使用しているキーワードを調べることで、人々の興味がある情報を推測することができます。一方で、検索数のみを頼りにしてコンテンツのテーマを決定するのは間違いです。キーワードツールに依存しないようにする必要があります。例えば「propagating lavender from cutting(挿し木でラベンダーを増やす)」というキーワードはツールでは検索数が少なく見えますが、YouTubeで「propagating lavender from cutting」と検索して上位に表示される3つの動画の総再生回数は40万回を超えています。こういったインサイトを得るには、キーワードツールだけでなく実際に表示されているものをリバースエンジニアリングする必要があります。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図8:検索数が少ないキーワードで上位に表示される動画の再生回数が多い例)

・成功している企業のサイトマップを調査する
自社の業界を牽引するような企業のWebサイトがあれば、そのサイトのサイトマップを確認することで作成する必要のあるコンテンツを見つけられる場合があります。

・検索結果をリバースエンジニアリングする
検索結果をリバースエンジニアリングする手法もあります。重要なキーワードの検索結果で上位に表示されるページのタイプを分類し、自社が表示したいタイプのページが表示されているか確認します。表示されていれば、そのページが上位に表示されるためにおこなったことを、リバースエンジニアリングして自社の戦略に落とし込みます。

 

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図9:検索結果に表示されるページのタイプを分類している例)

コンテンツの作成:古いコンテンツを更新する

古いコンテンツを更新すると、新しい情報を求める人に見てもらいやすくなる、過去にそのコンテンツを見た人が再度訪問してくれるなどの効果を期待できます。これを目的に、コンテンツが新しいことを示そうとしてタイトルの表記のみを新しくしている例もありますが、本質的なやり方ではありません。古いコンテンツを更新して長期的に成果を拡大したい場合は、コンテンツ自体を新たなアプローチで編集する必要があります。ディズニーでは、ライオン・キングが1994年のアニメーションから2019年にはフルCGで再公開され、大ヒットを記録しました。

コンテンツの作成:Googleの変化に対応する

Googleは、何年もの間ユーザーを検索結果から目的地に送り出す役割を果たしてきましたが、検索結果に直接グラフや地図を表示するようになり、現在ではユーザーにとっての目的地になろうとしています。シモンズ氏はGoogleに先んじるための戦略として、Googleが検索結果に表示する情報は基本的にウィキペディアから引用されていることから、ウィキペディアのコンテンツを参考に、より優れた(リンクする価値があり、読む価値があり、共有し、消費する価値がある)コンテンツを作るべきと述べました。ウィキペディアをシェイクスピアとしたら、ディズニーになったつもりでコンテンツを作ります。この戦略は、ウィキペディアが90年代に作成され、必ずしも閲覧者に優しいコンテンツとは言えないため、機能します。シモンズ氏は、「History of gardening(ガーデニングの歴史)」というテーマについて、この戦略にもとづいてコンテンツを作成して公開しました。このコンテンツは48時間で2,000人以上の購読者を獲得し、たくさんのトラフィックも生み出しました。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図10:ウィキペディアを参考にコンテンツを作成した例)

コンテンツの配布

ディズニーには、音楽、テレビ、映画、再発行、コミック、雑誌、ショップなどの機能的な流通チャネルがたくさんあります。コンテンツマーケティングをおこなう場合においても、自社のコンテンツを流通させるための戦略が必要です。シモンズ氏は、米Mozの調査結果から、Googleの検索結果において、自然検索結果の1位のリンクエリアに到達するために必要なスクロールの距離はとても長くなっていることを引用し、1位になっても十分なメリットを享受できないことも、流通戦略が重要である理由のひとつと述べています。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図11:米Mozによる検索結果のスクロール距離の測定結果)

 

また、新型コロナウイルスの影響もあり企業の広告予算は減少傾向です。2008年の金融危機の時は、広告予算が回復するまでに5年以上かかったという調査データもあり、広告予算が少ない時期が続く可能性があります。こういった背景を踏まえて、シモンズ氏は広告予算をかけずにコンテンツを流通させる戦略を紹介しました。

・Reshare(リシェア)
少し前に、ソーシャルアカウントでシェアした情報を再度シェアします。多くの企業やマーケッターが同じ情報を複数回シェアすべきではないと誤解しています。現在のフォロワーは2年前のフォロワーとは同じではなく、彼らにとっては新しいコンテンツのため、リシェアには意味があります。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図12:シモンズ氏が同じ情報を一定の期間がたってから再度シェアしている例)

・Repost(リポスト)
自社のコンテンツと関連性が高いコミュニティサイトに記事を再投稿します。シモンズ氏によると、Foundation社の記事をY Combinator社が運営する「Hacker News」に再投稿したケースでは、1回の投稿で、「Hacker News」のページから15,000程のトラフィックが得られたそうです。

・Remix(リミックス)
過去に成果が良かったコンテンツの一部を変更して、別のコンテンツを作成します。シモンズ氏は「the unbundling of Excel(エクセルのアンバンドリング)」をテーマにしたコンテンツの成果が良かったことを受け、「the unbundling of GSuite(GSuiteのアンバンドリング)」に関するコンテンツを作成したことを例に挙げました。

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図13:コンテンツをリミックスした例)

・Republish(リパブリッシュ)
流通チャネルを見つけるには、他のブランドがどこからトラフィックを得ているかリバースエンジニアリングする手法もあります。SimilarWebのようなツールを使い、競合サイトがトラフィックを獲得しているメディアを見つけましょう。そのメディアは自社のコンテンツとも親和性が高い可能性があります。シモンズ氏が、競合サイトがトラフィックを得ているメディアで、数年前のコンテンツを再公開した際には、23,000のトラフィックと少数の新しいクライアントの獲得につながったそうです。これは、自社のWebサイトで機能していない(トラフィックが無い)可能性のあるコンテンツを他チャネルで再度活用するという戦略にもとづいています。

 

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参照元 MozCon『Designing a Content Engine: Going from Ideation to Creation to Distribution』 (最終閲覧日:2020年11月18日)
(図14:コンテンツをリパブリッシュし、トラフィックが再度増えた例)

まとめ

シモンズ氏は、ディズニーでさえも公開した映画のすべてをヒットさせている訳ではないことに触れ、必ずしもすべてのコンテンツが目標とする成果を生み出さないこともあると述べました。一方で、本セッションで紹介した取り組みを開始し、組織内外のステークホルダーとの文化的な変化を促進するコンテンツの作成に継続的に取り組むことは重要です。ディズニーが採用しているコンテンツ作成モデルや流通チャネルを意識して組織に取り入れることが推奨されました。

サマリー

このセッションでは、ディズニーの取り組みを例に挙げながら、コンテンツマーケティングで成果を出すための取り組みが複数紹介されました。シモンズ氏が推奨する4つのRを参考に、公開してそのままになっているコンテンツを再活用することで新たな成果につながる可能性があります。

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この記事の著者

増渕 佑美

2014年に株式会社アイレップに入社し、SEOコンサルタントとして従事。ソリューション部署に所属。通販や人材などデータベース型サイトを中心に経験を積んでおり、現在はメディアサイトのSEOも担当し幅を広げている。
好きなこと:散歩、パズル、動物の動画をみること

2014年に株式会社アイレップに入社し、SEOコンサルタント...

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